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『AKIRA』をジャパニメーションの金字塔に持ち上げた、アメリカ非公式のネットワークとは

東京五輪延期や新型コロナウイルス蔓延を「予言していた?」など、いまなお話題にあがることの多い長編劇場アニメーション『AKIRA』(以下、劇場版『AKIRA』)ですが、実は、公開当時は国内外ともに興行的には成功したとはいえない作品でした。そんな『AKIRA』が、いかにしてジャパニメーションの金字塔と評されるようになったのでしょうか。

映画『AKIRA』が与えた“ジャパニメーション”の衝撃

1988年に公開された劇場アニメ『AKIRA』の4Kリマスター版。2020年4月24日に発売された (C)1988マッシュルーム/アキラ製作委員会
1988年に公開された劇場アニメ『AKIRA』の4Kリマスター版。2020年4月24日に発売された (C)1988マッシュルーム/アキラ製作委員会

 2019年7月、米ロサンゼルスで開催された「Anime Expo 2019」で大友克洋監督の新作劇場アニメ『ORBITAL ERA』とともに『AKIRA』の新作アニメプロジェクトの制作が発表され、話題を呼びました。ワーナー・ブラザースがたびたび実写映画化を発表(現在は企画保留中)するなど、海外、特にアメリカでの劇場版『AKIRA』の人気はいまでも陰りを見せません。

 しかし、同作が1989年にアメリカで初公開された際の状況は、決して恵まれたものではなかったことをご存知でしょうか?

 アメリカの人びとが初めて目にした『AKIRA』は、日本同様にマンガ版でした。劇場公開1年前の1988年当時、アメコミの世界には新しい時代の波が訪れていました。『ウォッチメン』や『バットマン:ダークナイト・リターンズ』の登場により、スーパーヒーローが活躍する勧善懲悪の物語だけでなく、より複雑な人間関係や緻密な描写がなされた、大人の鑑賞に耐えうる長編作品“グラフィックノベル”が注目され始めていたのです。

『AKIRA』はその一環として、『スパイダーマン』などで有名なマーベル・コミックスから刊行されます。その反響については「ユリイカ臨時増刊号 総特集・大友克洋」で手塚治虫氏が次のように語っています。

「ルーカスのIL&Mへ行ったとき、スタッフの1人がいきなり「アキラ」をぼくに見せて、「こういうのをアニメにしたいなあ」と言ったのを覚えている」

 しかし、クリエイターや一部の好事家たちから高い評価を受けたものの、アメリカでは日本以上に「マンガやアニメは子供向けのもの」と考える風潮が根強く、『AKIRA』はまだ知る人ぞ知る作品の位置に留まっていました。

 そして、大友克洋自身が監督を務めた長編劇場アニメーション『AKIRA』が、日本公開からおよそ1年半後の1989年12月にアメリカで公開されました。

 リアルな頭身で描かれるキャラクター、退廃した未来都市を緻密に描き込んだ美術、SF的な設定と壮大なスケールで描かれる物語、バイオレンスやグロテスクを内包したアクションーーディズニーに代表されるマンガ色が強いアメリカの児童向けのアニメとはまったく異なる“それ”は、強い衝撃を与えました。こうした『AKIRA』の衝撃は、後に “ジャパニメーション”なる造語を生み、海外における日本のアニメーション像に強い影響を残していきます。

【画像】4K映像で蘇った、『AKIRA』 迫力の暴走シーンと「ネオ東京」(7枚)

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