マグミクス | manga * anime * game

1995年の『エヴァ』がもたらした衝撃 時代と同調した「放送事故」級の最終回

波紋を呼んだTVシリーズの最終話

『劇場版 新世紀エヴァンゲリオン Air/まごころを君に』DVD(キングレコード)
『劇場版 新世紀エヴァンゲリオン Air/まごころを君に』DVD(キングレコード)

 父親との軋轢に悩むシンジ(CV:緒方恵美)、眼帯姿が印象的な綾波レイ(CV:林原めぐみ)、「あんた、バカぁ?」が口癖のアスカ(CV:宮村優子)、シンジの保護者となる葛城ミサト(CV:三石琴乃)……。貞本義行氏の描くキャラクターたちは、いずれも欠点を抱えていましたが、それゆえに人間的魅力を感じさせました。また、エヴァを襲う使徒の正体や「人類補完計画」をめぐる謎めいたストーリー設定に、視聴者はハマらずにはいられませんでした。

 そして、大きな波紋を呼んだのがシリーズ終盤を迎えた第25話「終わる世界」、最終話「世界の中心でアイを叫んだけもの」です。それまで緻密なSFアニメとして進行していた『エヴァ』が、ラスト2話でシンジを中心にした「集団カウンセリング」を思わせる予想外な展開となったのです。静止画、文字とナレーション、さらには絵コンテ、線描されたヒョロヒョロのシンジ、細かく字が書き込まれた台本までもが画面上にさらけ出されました。「放送事故か?」と叫びたくなるようなシーンの連続でした。

 使徒や「人類補完計画」の謎は明かされることなく、心の世界で葛藤を繰り返したシンジが「僕はここにいてもいいんだ」と自己肯定し、みんながシンジを祝福するシーンでTVシリーズは完結したのです。

時代とシンクロする庵野監督

 あまりにも多くの伏線が未回収のままだったため、TVシリーズとは異なる形の第25話と最終話を描いた『劇場版 新世紀エヴァンゲリオン Air/まごころを君に』が1997年に公開されます。賛否両論となったTV版の結末ですが、改めて見直すとシンジの心の世界を編集テクニックでうまく表現し、また制作スケジュールに追われる庵野監督自身の内面を生々しく反映していたことも感じさせます。

 経済破綻、マスコミで連日報道される大震災の惨状、カルト教団による無差別テロ……。それまで当たり前と思っていた日常風景はあっけなく消滅し、1990年代後半の日本には終末感が漂っていました。そんな社会状況と、ひっ迫した『エヴァ』の制作事情、庵野監督の心理状態がシンクロしたことで、TV版『エヴァ』の伝説の最終回は生まれたのではないでしょうか。

 新世紀を迎え、世界はさらに混沌化し、それまでの社会常識はますます通用しなくなっていきます。庵野監督は2011年に起きた福島第一原発事故をモチーフに、実写映画『シン・ゴジラ』(2016年)を撮り上げます。メルトダウンした原子炉のメタファーとして破壊神ゴジラは暴れ回り、首都・東京と旧世代の政治家たちを壊滅に追い込みました。シリーズ完結編となる『シン・エヴァンゲリオン劇場版』ですが、『エヴァ』が誕生した1995年以降の「失われた時代」を、庵野監督がどう総括して描くのかにも注目したいと思います。

(長野辰次)

マンガ『新世紀エヴァンゲリオン』を読む

1 2 3