『ガンダム』主人公が精神崩壊の衝撃EDから一転…「Z」から「ZZ」への路線変更の真相
痛い最後だった『Zガンダム』が一転、なんだかやけに明るい主人公たち? この違いが生まれたわけは?
TV局からオーダーがあった?

あの『機動戦士ガンダム』から5年、『ガンダム』と同じく人気を得た『機動戦士Zガンダム』。
『ガンダム』の時はまだ幼かった視聴者たちがちょうど中学生、高校生になり、『ガンダム』ではまだよく分からなかった、大人たちに翻弄され自己矛盾に悩む本作の主人公たちの想いにも感情移入できたといいます。
主人公の精神が崩壊するという終幕にショックを受けつつも、若者特有の感性でこの作品に惚れ込み、ガンダムという世界の虜(とりこ)になったファンも多いとか。
ところが、その後に続いた『機動戦士ガンダムZZ』の第1話を見た彼らは、前作とは全く逆の作風に驚いたといいます。
他人とのコミュニケーションが不得手で、ナイーブで内向的な主人公たちだったそれまでとは一変、新たな主人公は、あけすけで元気いっぱいの、いわば「ガンダムらしからぬ」キャラクター。敵側も含め、そのほかの登場人物も、やけに軽い性格なのです。
同じ富野由悠季監督なのに、この差はなぜ生まれたのでしょう。
『ガンダム』以降、常に新たな挑戦をよしとする監督は『伝説巨神イデオン』をはじめとして、ロボットを題材にしつつも全く別の作品作りにチャレンジし続けていました。
しかし、その間も「ガンプラ」は売れ続け、「MSV」などの、いわば「外伝」のような世界も生まれるなど、バージョン違いや全く別のモビルスーツが商品化されていきます。
当然スポンサーサイドからは『ガンダム』の新作を望まれ、要望は年々高まる一方。監督のなかでは、すでに過去作だった『ガンダム』も再燃させざるを得なくなったのです。
ところが『Z』は上記のような流れとなったからなのか、TV局が期待した視聴率がとれませんでした。
そこで下されたのが「もっと視聴者年齢を下げたガンダム」というオーダーでした。
一見、独創的で自分の思い通りに作品をつくっているように見える富野監督ですが、実は大変真面目で、周りのオーダーには確実に応えようとする人なのです。その結果が、あの能天気にも見える主人公たち、というわけです。
とはいえ、そこはガンダム。
話が進む内に、どんどんと物語は複雑になり「やっぱりガンダム」という方向へと流れてゆくことになります。
余談ですが、当時、TV局等に納めるシナリオの冒頭には200字のあらすじをつける決まりがあったのですが、『ZZ』のあらすじ作りを担当していた私は、あまりに難解な内容なので、上司に頼んで、倍の400文字にさせてもらいました。
いくつものドラマが絡み合って進んでいく『ZZ』。それでも売れたガンプラって、やっはりすごいですよね。
(風間洋(河原よしえ))
【著者プロフィール】
風間洋(河原よしえ)
1975年よりアニメ制作会社サンライズ(現・バンダイナムコフィルムワークス)の『勇者ライディーン』(東北新社)制作スタジオに学生バイトで所属。卒業後、正規スタッフとして『無敵超人ザンボット3』等の設定助手、『最強ロボ ダイオージャ』『戦闘メカ ザブングル』『聖戦士ダンバイン』『巨神ゴーグ』等の文芸設定制作、『重戦機エルガイム』では「河原よしえ」名で脚本参加。『機甲戦記ドラグナー』『魔神英雄伝ワタル』『鎧伝 サムライトルーパー』等々の企画開発等に携わる。1989年より著述家として独立。同社作品のノベライズ、オリジナル小説、脚本、ムック関係やコラム等も手掛けている。
2017年から、認定NPO法人・アニメ、特撮アーカイブ機構『ATAC』研究員として、アニメーションのアーカイブ活動にも参加中。
※本文の一部を修正しました。(2025.2.12 11:15)