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『ガンダム』緊急脱出! MSの「カプセル形式」が現実では主流にならなかったワケ

現実の戦闘機における緊急脱出装置は2025年現在、いわゆる「射出座席」が主流です。ところがかつては、「ガンダム」シリーズのMSのようなカプセル(モジュール)形式も見られました。より安全そうですが、なぜ主流にならなかったのでしょうか。

実はリアルでも実現していた「脱出カプセル」

「ガンダム」シリーズでおそらくもっとも知られる脱出ポッド。画像は商品付属の「νガンダム(別売)用交換右手首」の使用例。「超合金 MSN-04FF サザビー」(BANDAI SPIRITS) (C)創通・サンライズ
「ガンダム」シリーズでおそらくもっとも知られる脱出ポッド。画像は商品付属の「νガンダム(別売)用交換右手首」の使用例。「超合金 MSN-04FF サザビー」(BANDAI SPIRITS) (C)創通・サンライズ

 宇宙世紀を舞台とする「機動戦士ガンダム」シリーズでは、多くのモビルスーツ(MS)にカプセル型の脱出システムが搭載されています。特に一年戦争以降の時代においては、陣営を問わず標準装備として採用される傾向が顕著です。一年戦争当時のMSにはそのような機構はほとんど見られず、例外的に「ガンダム」のコア・ブロック・システムの一環として「コア・ファイター」が存在したに過ぎません。しかし、戦訓や技術の進化にともない、パイロットの生存性向上の観点から、脱出カプセルの採用が広がっていったと推察されます。

 MSの運用環境は宇宙空間も多分に含まれるため、脱出カプセルの導入には合理的な理由があると考えられます。第一に、気密性の確保により、ノーマルスーツの損傷時にも二重の安全策が講じられていることです。第二に、二酸化炭素吸収装置の搭載や酸素発生器の大容量化が可能となり、パイロットの生存時間が大幅に延長される点も見逃せません。密閉空間においては、酸素の減少よりも二酸化炭素中毒の方が生命維持にとってより深刻な脅威となるため、この設計は極めて合理的です。

 筆者(関 賢太郎:航空軍事記者)の見解としては、一年戦争期において脱出後のパイロットの生存時間が極端に短く、救助が間に合わなかった事例が多発したことが、カプセル型脱出装置の必要性を強く認識させる契機となったのではないかと推測します。

 MSの脱出機構の発想は、現実の航空機における脱出システムと類似するものです。現代の戦闘機では、緊急時にパイロットの生命を守る最後の砦として「射出座席(イジェクションシート)」が採用されています。通常、ロケットモーターを内蔵した座席がコックピットから瞬時に射出され、パラシュートの展開までを自動化する機構です。

 戦闘機においてもMSのようなカプセル型脱出システムが全く存在しないわけではありませんでした。その代表例のひとつが、アメリカのF-111「アードバーク」です。F-111は可変翼を備えた大型戦闘爆撃機であり、パイロットと兵装システム士官が並列に搭乗する「サイドバイサイド複座」の配置を採用しています。この機体はコックピット全体がカプセル化され、緊急時にはカプセルごと射出する脱出システムが搭載されていました。

 この方式の最大の利点は、脱出後も気密性が保たれるため、高高度や極寒環境、特に外気に触れることが致命傷となりうる超音速飛行中といった厳しい状況下でも生存率が飛躍的に向上する点にあります。

 しかし、カプセル型システムには大きな欠点も存在しました。特に、その重量とサイズの増加が深刻な問題で、カプセルの射出には強力なロケットモーターが必要となり、さらに着地時の衝撃を吸収するエアバッグの搭載も求められ、結果として、システム全体が大幅に重くなり、それがさらなる重量増加を引き起こす悪循環を招いたのです。

 戦闘機において重量増加は致命的な問題になります。機動性の低下、航続距離の短縮、兵装搭載量の減少といった部分に直結するからです。また、実際には超音速域での脱出という状況が極めて稀であることが判明し、カプセル型脱出装置は過剰な仕様であると判断されるに至ります。

 結果として、現代の戦闘機においては「シンプルさ」が最優先され、座席のみを射出する方式が主流となっています。一方でMSは、主戦場のひとつが宇宙空間という特殊な環境であることから、カプセル型脱出システムの導入が合理的とされたのでしょう。地球の大気圏内で戦う戦闘機においては、やはりシンプルな射出座席こそが最適解であるといえます。

(関賢太郎)

【画像】射出座席の老舗が約80年の歴史を重ね達成した偉大な記録「7777」!

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