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初日から酷評あいつぐ『白雪姫』作り手は何がしたかった? ファンとどこが「ズレ」てたのか

賛否両論を呼ぶ実写版『白雪姫』において、制作側の意図と、アニメのファンからの期待とのズレがどこにあったのか、いま一度考えてみましょう。

なぜ白雪姫が自分で掃除しないのか?

実写版映画『白雪姫』4DX上映のビジュアル (C)2025 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved.
実写版映画『白雪姫』4DX上映のビジュアル (C)2025 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved.

 2025年3月20日(木)から公開中の実写版映画『白雪姫』は、オリジナルとなる1937年のアニメ(原作はグリム兄弟)からの改変や、大小さまざまなツッコミどころなどが、賛否両論を呼んでいます。アニメのファンから厳しい声があった理由は、制作側の意図に「ズレ」があったからではないでしょうか。

※以下からは実写版『白雪姫』の一部内容に触れています。

●アニメのファンが期待していたのはやはり「大筋は忠実」?

 多くのアニメのファンが期待していた実写化は、「物語の大筋は忠実に」「さらに深掘りをする」内容だったのではないでしょうか。

 たとえば、実写版で継母の背景に深みを与えた『シンデレラ』や、侍女のキャラクターを追加した『アラジン』のように、「改変」そのものが嫌われているわけではありません。ディズニー作品ではありませんが、現在公開中の『ウィキッド ふたりの魔女』も舞台版からプラスされた要素がキャラの関係や心理をより深掘りしています。

●「雪のような白い肌じゃない」「白馬の王子様じゃない」改変への批判

 対して『白雪姫』では、「そもそもの設定」から変わっています。たとえば「白雪姫」の名前の由来である「雪のような白い肌」が、実写では「激しく雪の降る日に生まれたから」となりました。

 さらに、アニメでの運命の人である「白馬の王子様」は、山賊の「ジョナサン」というキャラクターに置き換わっており、劇中では「あなたは白馬の王子様じゃない」と言う場面もあります。こうして「キャラクターの根幹」を変えることは、本作に限らず原作のファンから批判される理由になり得るでしょう。

●監督は「大胆で奇抜な変更」ではなく「細かな調整」と言っているけど

 実写映画『白雪姫』を手掛けたマーク・ウェブ監督は劇場パンフレットにて、実写化にあたってのビジョンを「『白雪姫』の本質的な部分を大切にしつつ、現代的なひねりを加えたかった」「例えば、言葉遣いを今の観客にわかりやすいものにしています」「ただ、大胆で奇抜な変更を加えたのではなく、あくまで細かな調整、という感じでしょうか」などと答えていました。

 ただ、やはり前述した白雪姫や運命の相手の改変は、大胆で奇抜な変更、というよりもアニメのファンを怒らせてしまうレベルにまで達していたとは思います。

●白雪姫の性格と行動の改変は理にかなっている?

 とはいえ、筆者個人としては改変がうまくいっているポイントもあると思います。それは白雪姫の「性格と行動」です。

 アニメでの純粋無垢そのものの白雪姫は、抽象化された表現のアニメでこそ微笑ましく観られるものでもあり、実写でそのまま再現すると、違和感や居心地の悪さを覚えてしまう可能性もあったと思います。

 実写での能動的な言動をする白雪姫はそれはそれで魅力的でしたし、アニメにもあった人びとを結束させる白雪姫の役割は強調されており、その方向性での物語とキャラクターの「芯」は大きくは外してはないと思うのです。

●こびとたちに掃除をさせる改変の意図は?

 また、白雪姫が「7人のこびと」たちの家に初めて来たときに、動物たちと一緒に家のなかを掃除をしながら「口笛ふいて働こう」を歌うシーンにも、変更があります。実写ではこびとたち自らが「口笛ふいて働こう」を歌いながら掃除をして、白雪姫は一緒に歌いながら、ほうきで床を掃くお手本を見せたり、片付けるものを渡してあげる、という場面になっていました。このアレンジを加えたことについて、ウェブ監督はこう語っています。

「このシーンを通じて白雪姫の『人々を結びつける力』、言ってしまえば、彼女のスーパーパワーを表現したかったんです。言い換えれば、彼女は対立していた人たちを引き合わせ、お互いを理解させ、成長させる存在なのです。このアレンジは、オリジナルのアニメである『白雪姫』の精神を忠実に受け継ぎながらも、少しだけ現代的な進化をもたらすことができたと思います」

 筆者個人もこれは「アリ」な改変だと思うのですが、「動物たちと掃除するのが良かったのに」「白雪姫がこびとたちに命令していて自分は掃除をしないのかよ」とやはり批判が出ており、ここでも「忠実」を期待するファンとの制作側の意図のズレがあるのです。

●本家自らが改変したがゆえの問題かもしれない

 また、世界初の長編アニメ映画『白雪姫』が、本家本元の「ディズニースタジオの手」で改変されたこと、さらにその改変により展開が「雑」にも思えてしまうのも、批判される大きな原因にもなっていると思われます。

 たとえば、ディズニーはからんでいない2012年の実写映画『白雪姫と鏡の女王』は、グリム童話の物語を「ひねった」展開が目白押しの内容で、作品自体には賛否はあったものの、そのある種のパロディ的な方向性そのものが、大きく批判されているわけではありません。

 あるいは、2010年のディズニーの3DCGアニメ映画『塔の上のラプンツェル』も、元のグリム童話から「王子様を泥棒にする」などの大胆なアレンジもありましたが、こちらはそれ以前の古典的なディズニーによるアニメ作品はなく、泥棒のキャラクター「フリン・ライダー」の印象も含めて高評価を得ていました。

 個人的には実写版『白雪姫』において、白雪姫の性格や掃除での役回りは、現代目線でアニメから実写にするためのいいアレンジだと思います。ただ、自立した性格の白雪姫が「怪しいおばあさんが渡すリンゴを食べてしまう」「男性のキスで目覚める」など、改変部分がオリジナル通りの展開と齟齬を生んでいる、また「なぜそうなるのか」のロジックが欠けている部分もあり、「もとの物語をなぞる」ことと「現代的なアップデート」がうまく噛み合っていない印象も受けました。

 また、「王子様が山賊になる」という点を筆頭に、やはり今回の改変はウェブ監督の言う「大胆で奇抜な変更を加えたのではなく、あくまで細かな調整」という範疇には、どうしても収まっていません。それゆえに、今回の映画を「ディズニー本家からの裏切り」のように思い、憤ったアニメのファンも多いのではないでしょうか。総じて、受け手の価値観や感じ方で、評価が大きく変わる作品といえるでしょう。

(ヒナタカ)

※本文を一部修正しました(3月26日18時08分)

【画像】え…っ? 「正直怖い」かも こちらが実写『白雪姫』CGで再現された「こびとたち」です

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