「世界線」いつからフツーに通じるように? 『シュタゲ』に髭男…その語源を探る
「世界線」というワードをよく聞くようになりましたが、少なくとも「現在のような」ニュアンスは、古い辞書には見られません。語源はどこにあるのでしょうか。「調査のプロ」も、この疑問に取り組んでいました。
「世界線」いつから広まった?

本筋とは別の、ifの物語などを語る際に使われる「世界線」なる言葉、最近よく聞かれますが、その語源はどこにあるのでしょうか。
ご存知のように「世界線」は2025年現在、「並行世界」「パラレルワールド」といったニュアンスで広く使われています。そしてゲーム、アニメファンであれば即座に「シュタゲ」こと『STEINS;GATE(シュタインズ・ゲート)』が連想されることでしょう。
『STEINS;GATE』は2009年に5pb.(現、MAGES.)より発売されたアドベンチャーゲームで、端的にその内容を述べると、タイムマシンで過去を改変し「世界線」を移動しつつ、事態の解決を目指すという物語です。2011年にアニメ化されたこともあり、ゲームに触れたことはなくとも、その内容を知る人は多いことでしょう。ただ、詳細は省きますが、本作における「世界線」は上記のニュアンスと少し異なり、さらに「パラレルワールド」は存在しないとされています。
ゲーム、アニメファン以外の層だと、映画『コンフィデンスマンJP ロマンス編』の主題歌でもあるOfficial髭男dismの楽曲「Pretender」で知ったという人もいることでしょう。歌詞のなかで、まさにこの「パラレルワールド」のニュアンスで「世界線」というワードが使われています。一般に広く知られ、使われるようになったのは、この「Pretender」からかもしれません。
記者の肌感覚でも、「世界線」なる言葉に触れたのは『STEINS;GATE』以降で、さらに広く耳目にするようになったのは「Pretender」からのように思われます。やはり『STEINS;GATE』のワードなのでしょうか。
全国の図書館等で行われているレファレンスサービスの記録や情報の調べ方などが登録されたインターネットサービス「レファンレンス協同データベース」における、京都府立高等学校図書館協議会司書部会の事例(2022年10月14日付)によると、やはり「パラレルワールド」の意で使われる「世界線」は、『STEINS;GATE』から「広まったもの」とのことでした。
同事例の質問者は、上記した「Pretender」の歌詞について問い合わせたとのことです。これに対し同司書部会は調査の過程で、Webサイト「Uta-Net」内「今日のうた」に掲載された、「Pretender」の作詞者である藤原聡氏のインタビュー記事「Official髭男dism 僕にとってaikoさんはもうずっと“星”ですね。」(PAGE ONE、2019年4月26日)にたどり着きます。同記事では藤原氏が『STEINS;GATE』からインスピレーションを受けた旨を語っていました。
では『STEINS;GATE』が語源で正しいのか、同司書部会はさらに調査を続け、そして『三省堂国語辞典 第八版』(三省堂、2022年)に記載を見つけます。
実際に同辞典を引いてみると、確かに「コンピューターゲームの『シュタインズ・ゲート』から2010年代に広まったことば」(一部表記を変更しています)とありました。いわゆる新語の扱いになります。「広まったきっかけは『STEINS;GATE』」というのが、日本語のプロフェッショナルによるお墨付きというわけです。
ただし「語源」かどうかという点は断言されていません(京都府立高等学校図書館協議会司書部会も、語源とは判断していません)。ではどこが語源なのでしょうか。ネット上には、より古いSF作品に「パラレルワールド」のニュアンスにおける「世界線」の使用例が見られる旨の記載があったものの、今回の調査のなかで具体的なタイトルにはたどり着けませんでした。
もうひとつ、留意すべき点があります。ここまでは「パラレルワールドの意で使われる『世界線』」のお話でしたが、違う意味で使われる「世界線」もあるからです。
実のところ記者、そして京都府立高等学校図書館協議会司書部会も調査のなかで、先にたどり着いたのはこの「別の意味のほう」でした。もともと、物理学の用語として使われていた言葉なのだそうです。その意味についてはここでは説明を省きますが、いわゆる相対性理論に関する用語でした。
そのようなわけで、現在広く使われているニュアンスでの「世界線」がもともと『STEINS;GATE』の用語かどうかといえば、一部は正しく、一部は誤解、ということになります。
出典:「世界線」という言葉の語源は何か。なぜ使われるようになったのか。/京都府立高等学校図書館協議会司書部会(レファレンス協同データベース)
(マグミクス編集部)