ジョージ秋山さん追悼…『アシュラ』『銭ゲバ』は少年誌に載った哲学だった
ペーソスあふれる作風で知られる漫画家のジョージ秋山さんが亡くなりました。『浮浪雲』の連載は44年間にわたる大ロングランとなりましたが、若手時代には『銭ゲバ』『アシュラ』などの過激作を次々と発表し、社会問題にまで発展しました。当時の子供たちに衝撃を与えたジョージ秋山作品の深遠さを振り返ります。
44年続いた『浮浪雲』完結後も、次回作を構想中だった
漫画家のジョージ秋山さん(本名:秋山勇二さん)が、2020年5月12日に亡くなりました。享年77歳。『浮浪雲』を長年連載していた小学館のビックコミックオリジナル編集部によって、6月1日に発表されました。葬儀は近親者で済ませたそうです。
秋山さんは1943年東京都生まれ、栃木県足利市育ち。『丸出だめ夫』などで知られる漫画家・森田拳次さんのアシスタントを経て、1960年に『ガイコツくん』でデビュー。1961年から連載がスタートした『パットマンX』などのギャグマンガで人気を博しました。
1970年には、問題作『銭ゲバ』と『アシュラ』を立て続けに発表。少年マンガ誌6誌に連載を持ち、年収5000万円と目されるほどの売れっ子漫画家となりましたが、1971年にはすべての連載を終えて引退宣言をします。
放浪の旅を終えての復帰後は、次第に青年マンガ誌を活動の場に移し、1973年からスタートした時代劇マンガ『浮浪雲』は、2017年まで続く大ロングラン連載となりました。小学館によると、次回作を構想中だったそうです。
有害図書扱いされた問題作『アシュラ』
秋山さんの数多い代表作のなかでも、読者にもっとも強烈なインパクトを与えたのは『アシュラ』ではないでしょうか。『アシュラ』のテーマは、カニバリズム(人肉食)。当時、大変な人気を誇っていた「週刊少年マガジン」(講談社)というメジャー誌での連載でした。
中世の日本。飢饉によって食べ物はなく、主人公・アシュラを身篭っていた母親は、人間の死体を食べることで生き延び、アシュラを出産します。しかし、空腹状態の母親からは母乳は出ず、母親は幼いアシュラを焼いて食べようとするのです。飢えた人間は、獣と同じように本能に従って生きることが、生々しいタッチで描かれています。
あまりにも衝撃的だった『アシュラ』の第1話は波紋を呼び、一部の自治体で有害図書扱いされる騒ぎとなりました。当時の秋山さんは27歳。人間が同じ人間を食べるという、人間のもっとも深い“業(ごう)”を、秋山さんはマンガ表現でえぐり出そうとしたのです。
伝説のマンガとなった『アシュラ』は、2012年に劇場アニメーション化されています。残酷描写はかなり抑えた表現となっているものの、苦悩を繰り返しながら成人したアシュラの姿を見ることができます。ラストカットまで、見逃さないようにしてください。