アンチヒーローが問う正義『人造人間ハカイダー』が平成ライダーに通じる点 公開30年
本作のスタッフがその後に制作した作品とは?

本作をビターなテイストといいましたが、それは設定にも表れています。争いのない奇跡の街「ジーザスタウン」に1体の戦闘用ロボットが現れました。それがハカイダーです。そしてジーザスタウンに争いがないのは、「グルジェフ」という男にすべてを支配されているからでした。
グルジェフと反政府ゲリラの戦いにも興味を示さなかったハカイダーは、とあることをきっかけに戦いに身を投じることとなります。ハカイダーが戦うことになった理由とは……物語はこのように展開していきました。
ここで描かれるハカイダーは、ヒーローではありません。自分のことを「悪」と言い切れる存在でした。そして、ハカイダーと戦うことになる「ミカエル」は対照的に全身が白く、「正義」であることを強調する存在です。
キャラクター配置からもわかる通り、本作は便宜的に正義と悪の立場が逆転していました。こうした部分が本作の魅力と感じる人も少なくありません。子供にはわかりにくい構図であり、本作が大人向けと感じる要因といえるでしょう。
この点については、本作のプロデューサーのひとりが白倉伸一郎さんで、脚本が井上敏樹さんであることから、ピンとくる人もいると思います。後の「平成仮面ライダー」シリーズの基礎を作ったともいえるふたりでした。
「平成仮面ライダー」シリーズでは、複数の立場から見た正義を描く展開が多く見られます。勧善懲悪でなくさまざまな立場から見たそれぞれの正義、そういった複雑な関係の原点が本作にあったのかもしれません。
そういう意味では、ヒーローではないハカイダーは絶好のキャラクターだったのでしょう。そして当時のTV特撮では描くことのできなかったドラマを、劇場版という形でまとめたのかもしれません。
ちなみに本作『人造人間ハカイダー』は劇場版ののち、『人造人間ハカイダー -ラストジャッジメント-』というセガサターン用ゲームソフトが発売されました。セガサターン用ガンコントローラ「バーチャガン」対応のガンシューティングゲームです。
このソフトの発売元であるセガは、本作の制作にも加わっており、劇場版ののちにTV版の企画をスポンサーとして動かしました。この企画は結果的に翌年、TV特撮作品『超光戦士シャンゼリオン』となります。
ハカイダーというアンチヒーローを起用し描いたリブート作品。21世紀以降は珍しいことではありませんが、当時としては斬新な試みでした。この劇場版があったから、現在のようにスピンオフ作品が多く制作されるようになったのかもしれません。
(加々美利治)