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『エリア88』の「戦闘機ごちゃまぜ運用」が現代空戦ではさらに難しいかもしれないワケ

『エリア88』の魅力のひとつに、さまざまな国の多様な戦闘機が入り乱れるという要素があるでしょう。ただ、ひとつの部隊であれほど多様な戦闘機を運用するのは、現代ではちょっと難しいかもしれません。

20世紀とはガラリと様変わりした現代航空戦

サーブ35「ドラケン」。劇中でマッコイ爺さんは、フィンランドから事故で失われた2機をニコイチにして、アフターバーナーはドイツから入手、エンジンはオランダから「かすめ取ってきた」という (画像:SAAB)
サーブ35「ドラケン」。劇中でマッコイ爺さんは、フィンランドから事故で失われた2機をニコイチにして、アフターバーナーはドイツから入手、エンジンはオランダから「かすめ取ってきた」という (画像:SAAB)

『エリア88』(作:新谷かおる)は、1980年代を代表する戦闘機マンガとして、いまなお多くのファンの心を捉えています。その魅力のひとつが、多国籍かつ多機種の戦闘機が入り乱れる傭兵部隊の存在でしょう。F-14「トムキャット」、F-8「クルセイダー」、A-10「サンダーボルトII」、「ドラケン」、さらには実験機のX-29まで、さまざまな戦闘機が共存し戦場を駆け巡ります。

 作中では武器商人の「マッコイ」による、各種戦闘機を非正規ルートで調達するという手法が描かれています。実際こうした例は皆無なわけではなく、例えば1948年の第一次中東戦争におけるイスラエルは非合法な手段、主に密輸によって軍用機を入手し、「スピットファイア」やB-17といった連合国の軍用機だけではなく、ナチス時代ドイツのメッサーシュミットBf109まで導入しています。

 戦闘機の維持、運用には、適切な補給体制と専門的な整備が不可欠であり、機種ごとに異なる部品やメンテナンスが必要となるため、異機種混成部隊の持続的な運用は難しい問題があるものの、イスラエルの例に見られるように不可能ではないといえるでしょう。

 しかし、それも20世紀の時代だからこそ可能だったという考え方もできるかもしれません。『エリア88』のような運用がかつて可能であった背景には、第二次世界大戦や冷戦時代の戦闘機は、基本的にスタンドアローン(他の機器やシステムに接続せずに単独で機能する)で運用されることが前提としてあるから、といえるでしょう。

 この時代、各々の戦闘機は独立した火器管制システムを持ち、個々のパイロットの技量に依存する戦い方が主流でした。そのため、異なる国の戦闘機を混成部隊として運用しても、個々の戦闘機が単独で戦い、また主に音声通信を使用することでチームプレイも可能であったと考えられます。

 しかし、今日の航空戦ではこうしたごちゃ混ぜ混成部隊の活躍は難しいかもしれません。現代戦闘機はほとんどすべてデジタルデータリンクを持っており、戦闘機同士や早期警戒管制機、地上の防空ネットワークと同一のネットワークに加入しリアルタイムで情報を共有することが求められます。

 このような「ネットワーク中心戦」の概念に基づいた戦闘機は、早期警戒管制機の強力なレーダーを自機に搭載しているかのように扱うことができ、得られる情報による状況認識は劇的に向上します。つまり航空戦力全体でひとつの「戦闘システム」となり、高度な作戦を遂行することが可能となるのです。

 現代において異なる国の異なる機種を混在させてしまうと、共通のデータリンクを確立するには独自のシステムを開発し、各機に搭載する改修の必要があります。これを小国で行うのはかなり厳しい挑戦となるでしょう。『エリア88』のような戦闘機混成部隊を現代的な水準に引き上げるには、かなり高いコストを支払わなければならないといえるかもしれません。ネットワーク化が達成できなかった場合、個々の戦闘機がバラバラに戦うことになるため、これでは、ネットワーク統合された空軍と対峙する際に大きなハンデを背負うことになると考えられます。

 2025年現在、ウクライナ空軍はSu-27やMiG-29といった旧ソ連から受け継いだ戦闘機に加え、西欧諸国から供与されたF-16や「ミラージュ2000」を運用しています。また「グリペン」を導入する計画もあり、文字通りの多国籍多機種混成運用といえるでしょう。さらに、まもなくスウェーデンからS100D「アーガス」早期警戒管制機を供与されることが決まっており、S100DとF-16、「ミラージュ2000」「グリペン」はNATO標準のネットワーク「リンク16」の端末が搭載されているため、これらの戦闘機の能力を飛躍的に高めることが可能です。一方Su-27やMiG-29はその恩恵に預かることはないと考えられます。

 とはいえ、『エリア88』のような「ごちゃまぜ部隊」は、フィクションとしての魅力に満ちています。異なる国籍のエースパイロットたちが、それぞれの愛機を駆り、己の腕だけを頼りに死闘を繰り広げる姿は、まさにロマンの極致です。特に現代において現実的には難しいからこそ、作品としての面白さが際立つともいえるのではないでしょうか。

(関賢太郎)

【画像10枚】こちら『エリア88』風間真や同僚が乗ったおもな機体の実機写真です

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