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主人公が立ったまま絶命した『侍ジャイアンツ』 平和だったアニメ版とのギャップが衝撃的

梶原一騎先生原作の『侍ジャイアンツ』はアニメ化もされて大ヒットしましたが、実は原作とアニメの最終回がまったく異なっていました。

宮崎駿、富野由悠季も参加したアニメ『侍ジャイアンツ』

『侍ジャイアンツ』【想い出のアニメライブラリー 第112集】Blu-ray 表紙(TCエンタテインメント) (C)梶原一騎・井上コオ/TMS
『侍ジャイアンツ』【想い出のアニメライブラリー 第112集】Blu-ray 表紙(TCエンタテインメント) (C)梶原一騎・井上コオ/TMS

『侍ジャイアンツ』(原作:梶原一騎/作画:井上コウ)は「週刊少年ジャンプ」(集英社)で1971年に連載が始まり、1973年にTVアニメ化されて大ヒットを記録しました。「番場蛮」という主人公の名前のインパクトと「ハイジャンプ魔球」をはじめとする数々の魔球を記憶しているファンも多いでしょう。アニメは、原画に宮崎駿監督(第1話のみ)、絵コンテに富野喜幸(現:由悠季)監督ら、そうそうたる顔ぶれが参加していました。

『侍ジャイアンツ』は、原作とアニメでは最終回が異なっています。先に最終回を迎えたのはアニメの方でした。

 1974年9月15日に放送された「世界に輝く侍ジャイアンツ」は、1973年にV9を達成して日本一になった巨人が、来日した大リーグのチャンピオン、アスレテックス(アスレチックスがモデル)と「日米ワールドシリーズ」を戦うというストーリーです。原作にはない完全オリジナルのエピソードでした。

 ロジー・ジャックス(レジー・ジャクソンがモデル)が番場蛮の「分身魔球」を打ち砕いたところから最終回は始まります。打たれたショックから姿を消した番場ですが、ライバルの「眉月光」、「大砲万作」、「ウルフ・チーフ」やヒロインの「美波理香」に後押しされ、闘志を取り戻して球場に向かいます。

 最終戦の最終回、10対9で巨人がリードして満塁のピンチで登板した番場は、ハイジャンプして大回転しながら分身魔球を投げる「ミラクルボール」でジャックスを三振に打ち取りました。「世界最優秀選手賞」に輝いた番場は、大観衆とチームメイト、ライバルたちに祝福されながらエンディングを迎えます。絵に描いたようなハッピーエンドでした。

 一方、原作の最終回は、アニメの最終回の約1ヶ月後に発売された「週刊少年ジャンプ」(集英社)1974年42号に掲載されています。

 アニメと異なり、舞台は1974年です。この年、V10を目指していた巨人ですが、長嶋茂雄の衰えや投手陣に不調によって苦しいペナントレースを強いられていました。番場は得意の魔球「ハラキリシュート」(アニメには未登場)を駆使して活躍していましたが、オールスター戦で南海の野村克也に破られてしまい、通用しなくなってしまいます。窮地に陥った番場が編み出したのが分身魔球でした。

 そして天王山、中日ドラゴンズとの3連戦で、番場は第1戦で完投勝利すると、第2戦でもロングリリーフで勝利をおさめ、第3戦も7回からリリーフとして登板します。9回裏、最後のバッター、大砲万作に渾身の分身魔球を投げ込んで三振を奪いますが、なんと番場はマウンドに仁王立ちしたまま息絶えてしまいました。人間の能力の限界を超えてしまい、最後の一球を投げた瞬間、心臓マヒを起こしていたのです。

 翌日、番場の葬儀が行われ、兄貴分の「八幡太郎平」やライバルたちや幼い妹が号泣するなか、「さらばサムライ!!」の言葉とともにエンディングを迎えました。

 劇的な最終回ですが、実はものすごく駆け足で進むダイジェスト的な内容で、番場が亡くなってから葬儀までの描写もあっけないものでした。巨人のV10がどうなったかも描かれません(実際はドラゴンズが優勝)。この頃、『空手バカ一代』(作画:つのだじろう、影丸譲二)を並行して連載していた梶原先生は、多忙のせいで手抜きの原作を書いて担当の編集者に叱られることもあったそうです。それゆえ、最終回をじっくり描けなかったのかもしれません。

 ちなみに、担当の編集者だった角南攻さん(『トイレット博士』のスナミ先生のモデルとして有名)によると、番場蛮という名前は梶原先生の自宅で打ち合わせをしていたとき、偶然テレビから流れてきた『8時だヨ!全員集合』のドリフターズの音楽を聞いて決まったそうです(『メタクソ編集王』竹書房より)。

(大山くまお)

【画像】峰不二子そっくり? こちらが『侍ジャイアンツ』の色っぽいヒロインです

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大山くまお

ライター。映画、ドラマ、アニメ、マンガ、プロ野球、名言などについて執筆を行う。中日ドラゴンズファン。著書に『野原ひろしの名言 「クレヨンしんちゃん」に学ぶ幸せの作り方』(双葉文庫)、『名言のクスリ箱 心が折れそうなときに力をくれる言葉200』(SB新書)など。