『あんぱん』嵩がのぶに話した「逆転しない正義」とは やなせたかしさん自身は何だと思っていた?
朝ドラ『あんぱん』では、嵩がのぶに「逆転しない正義」を見付けたいと話しました。この逆転しない正義とは、やなせたかしさんは何だと思っていたのでしょうか。
アンパンマンが生まれるまで、ここから約20年

2025年前期のNHK連続テレビ小説『あんぱん』第63話では、主人公「若松のぶ(演:今田美桜)」と「柳井嵩(演:北村匠海)」の4年ぶりの再会が描かれ、話題を呼びました。約11分半の間、ふたりだけで語られた戦時中の体験や後悔、戦死した嵩の弟「千尋(演:中沢元紀)」について、そして「逆転しない正義」についての話にも注目が集まっています。
嵩は戦争体験を踏まえて正義は簡単に逆転してしまうと語った後、「逆転しない正義があるとしたら、すべての人を喜ばせる正義があるとしたら……僕はそれを見付けたい」と言いました。『あんぱん』第12週のサブタイトルにも使われた「逆転しない正義」は、嵩のモデルで『アンパンマン』の生みの親、やなせたかしさんの書籍にもたびたび出てくるワードです。
たとえば、やなせさんが死去する1年前に当たる、2012年のNHKの番組『100年インタビュー』でやなせさんが語った内容を書籍化した『何のために生まれてきたの?』(PHP研究所)を見てみましょう。やなせさんは「正義っていうのは、立場が逆転するんですよ」「戦争には真の正義というものはないんです。しかも逆転する」と話し、そして「それならば逆転しない正義っていうのは、いったい何か?」と述べています。
やなせさんが思う逆転しない正義とは、「ひもじい人を助けること」でした。戦時中に派遣された上海で朝晩の薄いお粥しか支給されず、「若い時の空腹というのは、ぜんぜん我慢ができない」「飢えるってことが一番つらいこと」と身に染みて学んだというやなせさんは、「そこに飢えている人がいれば、その人に一切れのパンをあげるということは、A国へ行こうが、B国へ行こうが、正しい行い」と言い、飢えを助けるヒーローとして、自分の顔を他者に分け与える「アンパンマン」が生まれたことも語っています。
また、『アンパンマンの遺書』(岩波書店)では、やなせさんは戦後の日本ががらりと変わっているのを見て「正義は或る日突然逆転する」「正義は信じがたい」と感じたことを語り、「逆転しない正義とは献身と愛だ」と綴っていました。こちらも「眼の前で餓死しそうな人がいるとすれば、その人に一片のパンを与える」ヒーローである、アンパンマンにつながっています。
『あんぱん』第1話冒頭では初老になった嵩がアンパンマンの絵を描きながら、ナレーションで「正義は逆転する」と言い、「決してひっくり返らない正義」とは「お腹を空かせて困っている人がいたら、一切れのパンを届けてあげることだ」と語る場面が描かれました。ドラマ全体のテーマとして、「逆転しない正義」は重要な意味を持ちそうです。
63話時点では物語はまだ1946年1月で、1969年にやなせさんが雑誌「PHP」(PHP研究所)で連載された童話『十二の真珠』の1話「アンパンマン」(この頃はあんぱんを配る普通の人間という設定)を描くまで、ここから20年以上もあります。『あんぱん』で「献身と愛」のヒーロー、アンパンマンが生まれるまでにどのようなストーリーが描かれるのか、要注目です。
(マグミクス編集部)

