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【金ロー】『レディ・プレイヤー1』 心ときめく仮想世界で「俺はガンダムで行く!」

性差別も人種差別もない「自由な世界」に託されたものは?

VR空間を舞台に物語が展開する『レディ・プレイヤー1』。洋画専門CS放送ザ・シネマでも、2020年4月から同作本編と関連作品が放送されている (C) Warner Bros. Entertainment Inc.
VR空間を舞台に物語が展開する『レディ・プレイヤー1』。洋画専門CS放送ザ・シネマでも、2020年4月から同作本編と関連作品が放送されている (C) Warner Bros. Entertainment Inc.

 同年に公開された、同じくスピルバーグ監督作『ペンタゴンペーパーズ 最高機密文書』などの社会派作品と比べ、『レディ・プレイヤー1』を「面白いけど、中身がない」と批評する声もあります。でも、本当に『レディ・プレイヤー1』は中身のない作品なのでしょうか?

 仮想現実「オアシス」はVRグラスさえあれば、誰でも無料で参加することができます。ここでは、自分がなりたいと思うアバターに姿を変えることができます。つまり、容姿や年齢や社会的立場だけでなく、人種も国籍も性別も関係のない、まったく自由で平等な社会なのです

「オアシス」では遠い国で暮らす人とも友達になれ、独自に勉強や研究をすることも可能です。プレイヤーの意欲次第で、自分の夢を叶えることができる“理想郷”でもあるのです。

 そんな“理想郷”になりえる「オアシス」を、大企業「IOI」のノーラン社長(ベン・メンデルソーン)は、資本主義の理論で独占しようとします。「オアシス」の自由を守るため、ウェイドたちは命懸けで闘うことになるのです。

  我々が普段使っている「SNS」も本来はとても自由な世界ですが、他者への誹謗中傷などが目立つことから、実名登録や罰則化を求める動きが日本でも進んでいます。本当に自由な社会であるためには、参加者それぞれの自覚が必要となります。エンタメ度100%の『レディ・プレイヤー1』ですが、理想社会のあるべき姿を提示しているとも言えそうです。

 アニメや特撮のファンが歓喜するシーンが満載の本作ですが、中盤に登場するホラー映画『シャイニング』(1980年)をモチーフにしたシークエンスも注目です。

 スティーブン・キング原作の同名小説を、スタンリー・キューブリック監督が映画化した『シャイニング』は、その怖さがハンパありません。キューブリック監督と交流のあったスピルバーグ監督は、この名作ホラーをVRとして再現しています。

 映画『シャイニング』の舞台となった幽霊ホテルに、自分も迷い込んでしまったようなハラハラ感が楽しめます。もしかすると将来的には、名作ホラーやファンタジー映画の世界を全身で体感できるVRソフトが実現化されるようになるかもしれません。これからのネット社会やエンタメ業界を予測する面白さも、本作には含まれています。

 そそして、オアシスを開発したジェームズ・ハリデー(マーク・ライアン)も気になる存在です。オタクがそのまま大人になったような姿は、アポロキャップを被っていた頃のスピルバーグ監督自身を思わせます。ユダヤ系の家庭に生まれ、両親の離婚もあって孤独な少年時代を過ごしたスピルバーグ監督ですが、映画づくりに情熱を注ぎ、映画界で大成功を収めました。『インディ・ジョーンズ』や『ジュラシック・パーク』は、子供の頃に夢見ていた世界を映像化した作品です。

『レディ・プレイヤー1』を観ていると、大巨匠となったスピルバーグ監督の胸の奥には、今でも「オタク心」が息づいていることが感じられます。

(長野辰次)

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