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『あんぱん』残り14話でどこまで描く? 絵本のアンパンマンが生まれた同年、やなせたかしには他の「転機」も訪れていた

『あんぱん』24週では、「あんぱんまん誕生」の物語が描かれます。1973年の絵本の年まで描かれるのでしょうか。

まさに転機の年だった

柳井嵩役の北村匠海さん(2020年11月、時事通信フォト)
柳井嵩役の北村匠海さん(2020年11月、時事通信フォト)

『アンパンマン』の作者、やなせたかしさんと妻の暢さんの人生をモデルにした2025年前期の連続TV小説『あんぱん』第24週のタイトルは、ずばり「あんぱんまん誕生」です。カタカナの「アンパンマン」ではなくひらがな表記ということは、24週では1973年にフレーベル館から発売された絵本『あんぱんまん』(子供向けなのでひらがなになった)が作られるまでの物語が描かれるのでしょう。

 116話では、「柳井嵩(演:北村匠海)」が、まだ普通のおじさんの姿をしている「アンパンマン」の物語(1969年にやなせさんが月刊誌「PHP」で1年間短編を連載したうちの一編)の物語を完成させました。117話では、「のぶ(演:今田美桜)」が柳井家にやってきた編集者に、アンパンマンの物語を勧めることが予告されています。現在の「顔がアンパン」のヒーローが生まれた、絵本版の誕生も近そうです。

 絵本『あんぱんまん』は、フレーベル館の4、5歳児向けの月刊物語絵本「キンダーおはなしえほん」1973年10月号で発表されました。24週のうちに物語が1973年の後半まで進むなら、ほかにもいくつか重要な出来事が描かれると思われます。

 1973年4月、やなせさんが処女詩集『愛する歌』を出した株式会社山梨シルクセンターは、株式会社サンリオに商号を変更しました。同じタイミングで、やなせさんはサンリオから自身が責任編集を務める詩と絵を扱った雑誌『詩とメルヘン』を発表します。サンリオの社長、辻信太郎さんはやなせさんが雑誌を作りたいというと、「いいですよ、出しましょう」と、詳細を聞かずにGOサインを出したそうです。

 辻さんが制作費を120万円まで出すと言ってくれた『詩とメルヘン』は、1973年4月の創刊号からヒットし、初版1万5000部はすぐに売り切れ、5刷りまでいったといいます。そうして『詩とメルヘン』はすぐに月刊誌となり、2003年8月に休刊となるまで30年続きました。

 やなせさんは「ライフワークのひとつ」であるこの『詩とメルヘン』が、サンリオにとってもプラスになったと語っています。自伝『アンパンマンの遺書』では、「サンリオ社はこの時、精神の部分にひとつの核ができた。(中略)詩や童話の好きな辻信太郎社長の気質にぴったりと融合したのだ。だから、それが後のキティ(ハローキティ)の大ヒットにつながっていったとぼくは思っている」と述べていました。

 嵩も近いうちに、辻さんがモデルと思われる「八木信之介(演:妻夫木聡)」と、雑誌立ち上げに動き出すと思われます。

 また、1973年にはもうひとつ、やなせさんにとって重要な会が作られました。あるとき、大阪の丸善で漫画集団(やなせさんが所属していた大人向けマンガを描く漫画家の集団)の展示を行ったときの帰り、やなせさんは漫画家仲間の前川かずおさんと、絵本好きの漫画家で「絵本の会」を作って丸善で展覧会をしようと盛り上がったそうです。

 そして、新幹線で東京駅に着くまでにプランが固まり、やなせさん、前川さんのほかに、おおば比呂司さん、佐川美代太郎さん、多田ヒロシさん、長新太さん、馬場のぼるさん、牧圭一さんによる「漫画家の絵本の会」が作られました。その後、手塚治虫さんや、永島慎二さんらも参加し、各地の丸善支店や、東南アジアなどへの旅行もするなど、楽しい会になったそうです。後年、ほかの漫画家たちは、最年長だったやなせさんを残して皆亡くなってしまったものの、やなせさんにとって大事な会となりました。

 この「漫画家の絵本の会」でサイン会をすると、やはり手塚さんの人気が圧倒的だったとのことですが、最初は絵本が『やさしいライオン』(フレーベル館)と『とぶワニ』(岩波書店)の2冊しかなかったやなせさんも、『あんぱんまん』ほか多数の作品を発表していくなかでファンが増えていったといいます。

 1973年は、やなせさんが「転機の年」「その後のすべてはこの年にはじまった」(『アンパンマンの遺書』より)と語るほど重要な1年でした。『あんぱん』は残り14話、9月26日(金)で最終回を迎える予定ですが、この年はじっくりと長めに描かれるかもしれません。

参考書籍:『アンパンマンの遺書』(岩波書店)、『人生なんて夢だけど』(フレーベル館)

(マグミクス編集部)

【画像】え…っ? 「今田美桜には似てないけどめっちゃ美人」「こりゃ、やなせさんもホレるわ」 こちらが妻・暢(のぶ)さんの若き日の姿です

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