「失い続けても歩みを止めない」片足のアラフィフ作家が贈る「異色ダンジョン小説」とは?【作者インタビュー】
平凡な主人公が自宅の庭にあったダンジョンの管理に奔走する小説『汝、現代ダンジョンに希望を持つべからず』は、Web連載から書籍化・コミカライズへと躍進中です。作者の鋼我さんは、右脚を失う事故などの壮絶な経験をもつ会社員作家です。異色の経歴を持つ作家が語る、物語論と作品誕生の舞台裏とは……?
突然「今日から書きませんか?」と言われて…?

『汝、現代ダンジョンに希望を持つべからず』という作品をご存じでしょうか。購入した中古一軒家の庭にダンジョンがあったために、国により管理を任された主人公が悪戦苦闘する物語です。小説投稿サイト「カクヨム」で連載され、現在はコミカライズと書籍化が同時進行している期待作です。
作者である鋼我先生は現在40代半ばで、会社員を続けながら創作活動を続けています。現実世界に現れた「ダンジョン」を舞台に、特殊な能力を何ひとつ持たない主人公の地道な「成り上がり」物語が誕生するまでの秘話と、作者自身に起こった「物語」について聞きました。
※同作を出版するKADOKAWA「MF文庫」編集担当の方にも同席いただきました。
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――『汝、現代ダンジョンに希望を持つべからず』(以下、なんダン)とはどんな作品なのでしょうか?
鋼我さん(以下、敬称略) 主人公たちが現在世界に現れたダンジョンを探索し、酷い目にあう物語です(笑)。現代ダンジョンの探索作品は基本的にサクセスの物語で、カジュアルに成り上がっていくことが多いんです。最初少し苦労するくらいであとはどんどん成功していくパターンは自分も好きなんですが、今ではもう目新しくありません。
似た作品がたくさんあるなかで同じものを出しても読んでもらえないじゃないですか。自分にはあまり時間がなかったので……。
――時間がない、とはどういうことでしょうか?
鋼我 いま40歳半ばなので、チャンスは残り少ないと感じていました。渋滞した道を行くよりも、空いている道を探したほうがいいと考え、主人公に次々と苦労が押し寄せてくる話に舵を切ったんです。異能に目覚めても簡単に勝てる世界ではなく、さらに苦労するという描写に力を入れています。
あくまで自分にとってですが、苦労させた方が物語の起伏を作るときにすごく楽なんですね。主人公が完璧じゃない、あまり強くない。もっと言ってしまえば欠点がある。そこで物語に起伏ができて、成長の要素も生まれてくると思うんです。失敗したらマイナスも発生しますが、挽回する物語を書くことができます。なので自分の作品の場合、主人公は大抵ひどい目にあうのです(笑)
――書籍化の話があった時は、どのようなお気持ちでした?
鋼我 2025年4月にwebでの連載をスタートしたんですが、第1章が終わる前に別の会社さんからコミカライズしないかというお話があって、その次に今回の書籍化のお話が来ました。
――先にコミカライズのお話が動いていたんですか!
KADOKAWA編集担当 文字通り先を越されました(笑)
――注目されている作品だとそういうことがあるんですね。ところで『なんダン』は、もともとアスキーアート(コンピュータの文字や記号を組み合わせて絵やセリフを描く表現手法)の作品でした。なぜ鋼我先生はアスキーアートで作品を発表していたのでしょうか?
鋼我 アスキーアートを始めたきっかけは覚えていませんが、絵をペタっと貼ってセリフを入れればマンガの1コマを作れて、少し続ければ簡易的な作品ができるので、物語を作りやすいなと感じていました。それに掲示板というシステムのなかでやるので、読者からすぐに反応が来るんです。
反応してもらえるってことは「面白い」と思ってもらってるということなので、モチベーションが発生するんですよ。それで続けていくことができました。
――そこから小説に切り替えたきっかけはなんなんでしょうか?
鋼我 実は、ある専門学校のノベルス科に通っていたことがあるんです。でも小説は全然書いていなかったんですね。そんなある日、ゲーム仲間の作家さんに突然「今日から書きませんか?」と言われたんです。
その時、「今ここで書かないって言ったら、俺は一生書かないだろうな」と直感しました。その勢いで以前書籍化されたデビュー作『決戦世界のダンジョンマスター』の冒頭部分を書き上げたんです。世界観も一切考えず、主人公がヒイヒイ言いながらゴブリンと戦うシーンだけをまず書いて、そこから続けて書き進めていきました。あのときかけてもらった言葉と、自分のなかの焦燥感から、小説を書くようになったんですね。
そこから1日3000文字を書いては、友人たちに見てもらってレスポンスをもらう日々が続きました。そのおかげで書き切ることができたんです。



