新作『神奈月紫子』は集大成? 画業40年の赤石路代先生が描く、強い意志の人物たち
『ワン・モア・ジャンプ』『めもくらむ~大正キネマ浪漫~』など、少女マンガ家・赤石路代先生は数々のヒット作で意志の強い魅力的な登場人物を描いてきました。「月刊flowers」2020年9月号より連載開始した最新作では、その集大成ともいえる人物像が主役として描かれています。
オシャレな世界観と、名セリフの数々
数々の少女マンガヒット作を送り出してきた赤石路代先生が、この2020年で画業40周年を迎えました。それと同時に小学館「月刊flowers」9月号より、新連載『神奈月紫子の優雅な暇潰し』がスタートしています。少女マンガに詳しい芸人の別冊なかむらりょうこさんに、赤路先生のヒット作を振り返りつつ、新作の見どころを解説してもらいました。
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赤石路代先生は、1959年生まれの現在60歳。武蔵野美術大学の学生だった1980年に、「別冊少女コミック」1月増刊号掲載の『マシュマロティーは一人で』でデビューしました。
赤石先生の作品のジャンルは多岐にわたります。スポーツものから、タイムスリップもの、超常能力もの、演劇もの、大正文化もの……。どれもに共通しているのは、オシャレな世界観と、こうも言い切ってくれるか! というセリフの数々。そして、強い意志を持った目が印象的な、逆境に立ち向かう主人公たちです。
●大ヒット作品『P.A. プライベートアクトレス』
こちらは1991年~1999年まで小学館「プチコミック」にて連載され、1998年には榎本加奈子さん主演でドラマ化もされました。
お嬢さま学校に通う、儚げな美少女・小早川志緒16歳。しかし、彼女にはいくつもの顔がある。ある時は、生き別れになった娘、ある時は霊能者、ある時は殺人が乱立する中学校の転校生……彼女は、依頼人のために希の役を演じてみせる、日常に潜む女優「プライベートアクトレス」。天才的な演技力を持つ彼女だが、表向きな女優にはなれない理由が……。
1話完結でさまざまな依頼人の事情を解決していく天才美少女に、釘付けになる作品です。その類まれな演技力とはうって変わり、誰にも裏表のない態度で接する彼女も魅力のひとつ。誰にも言えない依頼人たちの裏側を見てきた彼女が「人間が好き」と言うシーンには、芝居と生き方の根底をのぞける気がします。
●第39回小学館漫画賞受賞『ワン・モア・ジャンプ』
1992年~1996年、小学館「ちゃお」にて連載されていた作品です。主人公・七瀬帝は連載開始当時12歳。趣味程度にやっていたフィギュアスケートですが、父の死を機に、双子の兄・皇とペアを組んでデビューします。双子ならではの息の合った演技後、皇が事故で亡くなってしまう。相次いだ父と兄の死に、母は気を病んでしまいますが、帝の前には、父がロシア人の愛人との間に生まれたトーマが現れ、帝に言います。
「君は皇に合わせていた。本来の君は皇より高いジャンプが飛べる」
ふたりはオリンピック出場という目標に向かって歩み始める……。
小学生のときに初めてこの作品を読んだ時、帝の置かれている不遇な状況と、それでも前を向き続ける帝の明るさに衝撃を受けました。ときに人は、愛する人とともにいるために、自分の力を少なく見積もるものです。帝の力を引き出すトーマの存在は、見るものにパワーを与えてくれます。