『ばけばけ』司之介に「雪女とのハーフ」説が出た理由とは 一部史実をもとにしたセリフが原因
『ばけばけ』最終週では、トキの養父・司之介に関して、驚きの説が出てきました。
司之介の母はなぜ「不在」なのか

連続テレビ小説『ばけばけ』第25週123話では、主人公「雨清水トキ(演:高石あかり)」の養父「松野司之介(演:岡部たかし)」がさらっと驚きの情報を語り、視聴者がさまざまな考察を始めています。最終回が近づくなか、彼が「雪女のハーフなのか」ということが話題になっているようです。
123話で、トキは亡くなった夫「雨清水八雲(レフカダ・ヘブン/演:トミー・バストウ)」の最後の著作となった『怪談』に関して、ヘブンのかつての同僚「イライザ・ベルズランド(演:シャーロット・ケイト・フォックス)」から、売れ行きも評判もよくないと聞かされました。
トキがショックを受けるなか、司之介は「『怪談』はええ本じゃぞ」と言った後、「『雪女』の話は…あれ、わしの父上が雪女と会った話をヘブンにしちょったのが基になっちょるけん、わしにとっても、父上にとっても、ほんに宝物じゃ」と語っています。
123話の放送後、SNSでは「司之介の母が雪女ってことだったよね…?妖怪ハーフと神官娘の夫婦だけでも別の話を作れそう」「司之介のママ(雪女)が出て行っちゃったからドラマに出てこないし、話題にも出てこなかったの? 司之介の浮世離れ感って…。だから妖怪に理解ある出雲大社の神官の娘おフミさんを嫁にもらったの?」「司之介が雪女の子だから松江の冬も少しも寒くないのね」といった視聴者の声が相次ぎました。
司之介は一言も「母親が雪女」とは言っていませんが、ヘブンのモデルの小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)の著作『怪談』(1904年)に収録された「雪女」は「異類婚姻譚」として有名です。
かつて雪の日に雪女に殺されそうになった「巳之吉」という少年は、「この秘密を話したら殺す」という約束で命を助けられ、大人になって「お雪」という美しい女性と家庭を作りました。しかし、ある雪の晩、巳之吉はつい妻に雪女と会った日のことを話してしまいます。するとお雪は雪女としての正体を現し、ふたりの間に生まれた子供に免じて巳之吉を殺さずに去っていきました。
この「雪女」の話があまりにもよく知られているため、トキの養祖父「勘右衛門(演:小日向文世)」が巳之吉のような体験をして、雪女との間に司之介が生まれたということなのかと思った人がいたのでしょう。
勘右衛門のモデルである稲垣万右衛門は、実際に子供の頃に雪女に遭遇したそうで、この話はハーンの来日後初の著作『知られぬ日本の面影』(1894年)の「幽霊と化け物」という章で語られています。この章では司之介のモデル・稲垣金十郎が、ハーンに父の体験談を話していました。
万右衛門は子供の頃、冬に大きな白い顔の女が雪のなかから現れ、あたりを見回しているのを目撃したそうです。万右衛門少年は怖くて逃げ帰ったといいますが、この雪女は人を驚かすだけで特に害はないと説明されています。『怪談』で語られたような、美しい雪女とのロマンスではありませんでした。
ちなみに、ハーンは『怪談』の序文で、「雪女」について「武蔵の国、西多摩郡調布のある百姓」が故郷の言い伝えとして語ってくれたものだと説明しています。しかし、ハーンが実際に「雪女」プロットの元となる話を聞いたのは、東京・大久保の家に出入りしていた庭師の親子、宗八とお花からでした。
宗八たちが話した元の民話は、青梅地方に伝わる「木の精霊と木こりの異類婚姻の物語」です。これをハーンが万右衛門の出会った松江の雪女と組み合わせて「雪女」が生まれたのではないか、という考察は小泉八雲記念館の館長・小泉凡さん(ハーンとセツのひ孫)も語っています。
真相は分かりませんが、こういった説があるため、『ばけばけ』123話で司之介が父と雪女の話をしたのでしょう。
ちなみに劇中で「司之介の母(勘右衛門の妻)」に関してほぼ言及がないのは、彼女のモデルの記録が何も残っていないからだと思われます。歴史家の長谷川洋二さんによるセツの評伝『八雲の妻 小泉セツの生涯』には、小泉家、稲垣家の関係者のことが細かく書かれているものの、万右衛門の妻の情報はほとんどありません。
長谷川さんは稲垣家代々の墓がある松江市の万寿寺の墓碑と過去帳を確認したとのことですが、彼女に関しては1876年8月13日まで生きていた記録はあったものの、「金十郎の母」とだけ書いてあって、名前も分からなかったそうです。
真実はどうであれ、母に関する情報がほぼ何もない金十郎がモデルの司之介が「雪女の子供」と考えると、それはそれで面白いかもしれません。
参考書籍:『八雲の妻 小泉セツの生涯』(潮出版社)、『怪談』(光文社)、『知られぬ日本の面影』(響林社)
(マグミクス編集部)

