【追悼】岸部四郎さんの代表作『西遊記』 ひょうひょうとした名脇役だった
最終回は視聴率27.4%を記録
ケンカっぱやい孫悟空、女に弱くて食い意地の張った猪八戒との間に、ひょうひょうとした沙悟浄が入ることで、うまくバランスが取れていたように感じます。沙悟浄がヒッピーっぽい衣装だったのは、岸部さんのLA遊学経験の名残りではないでしょうか。
バンドに例えるなら、孫悟空は自由奔放はギター、猪八戒はワイルドなドラム、そして沙悟浄はクールなベース。個性的な3人がサポートすることで、三蔵法師は長い長い旅(ツアー)を続けることができたのです。1978年の『西遊記』には、陽気なトラベリングバンドを思わせる魅力がありました。
ゴダイゴが演奏する「ガンダーラ」も、とても印象に残るエンディング曲でした。
「そこに行けばどんな夢もかなうというよ」
「その国の名はガンダーラ。どこかにあるユートピア」
タケカワユキヒデさんの歌声が流れると、「あぁ、日曜日が終わったんだなぁ」としみじみとしたものです。
最終回は番組史上最高となる視聴率27.4%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)を記録した『西遊記』ですが、結局のところ三蔵たち一行は目的地である天竺(インド)には到着できないままでした。ユートピアには、簡単にはたどり着けない。そう思わせるエンディングでした。
2013年の東京ドーム公演に参加
岸部さんが1996年に執筆した著書『岸部のアルバム』(夏目書房)を読むと、大変なこだわりのコレクターだったことが分かります。明治の文豪たちの初版本、工芸品、ブリキの玩具、ヴィンテージジーンズなど、お気に入りのものをいろいろと収集していました。司会業などで稼いだギャラは、貯金することなく使っていたようです。
1995年に日本公演を行なった人気ギタリストのエリック・クラプトンには、大事にしていたヴィンテージジーンズをプレゼントしています。世間で言われたような「ケチ」ではないと、『岸部のアルバム』には記されています。
2007年に14歳年下の再婚した奥さんを亡くし、それ以降は塞ぎ込むことが増え、体調も崩しがちになったようです。そんななか、2013年に再結成した「ザ・タイガース」の東京ドーム公演には、車椅子姿でステージに参加しています。バンド仲間たちとの久しぶりの再会に、笑顔を見せていました。
劇場アニメ『あしたのジョー』(1980年)、『あしたのジョー2』(1981年)では、体はデカイのに小心者のマンモス西役を声優としてうまく演じていました。バンドブームを題材にした映画『アイデン&ティティ』(2003年)では、GS時代を懐かしむ音楽プロダクションの社長役を人間くさく演じて見せました。ひょうひょうとした風貌を活かし、名脇役として活躍した岸部さん。愛する奥さんが待っている「愛の国」ガンダーラへ、静かに旅立ったのではないでしょうか。
(長野辰次)