マグミクス | manga * anime * game

『鬼滅の刃』に見える“覚悟” 脱税事件のあったufotableに「生殺与奪の権」

快進撃を見せている『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』。なぜ「週刊少年ジャンプ」編集部は、子供には理解しづらい難しい漢字や表現が多数使われており、簡単に理解できる作品ではない『鬼滅の刃』の連載にGOサインを出し、ヒットにつなげ、歴史に残る作品へと昇華する道筋をつけることができたのでしょうか。

『鬼滅の刃』の行間に潜む、多くの覚悟

『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』 (C)吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable
『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』 (C)吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable

「生殺与奪の権を他人に握らせるな!」

『鬼滅の刃』を知る方なら、このセリフをご存じでしょう。禰豆子をかばい、土下座をしている炭治郎に向け、水柱・冨岡義勇が放った言葉です。

「自分や大事な人の命を、他人に好き勝手させるな!」という意味の言葉ですが、日ごろ、人生を他人に握られている立場の人の心には突き刺さったのではないでしょうか。筆者も心を抉られました。

しかし、「週刊少年ジャンプ」を読んでいる少年たちにとってはどうだったのでしょうか?  例えば生殺与奪の「奪」の字は、中学校卒業レベルで習得する漢字とされており、小学生のなかには文字単体では読めない、意味が分からない読者も大勢いたはずです。

 また、『鬼滅の刃』の作中には、大人でもフリガナなしでは読めないレベルの難解な漢字や表現が大量に使用されています。「風の呼吸 弐ノ型 『爪々・科戸風(そうそう・しなとかぜ)』」や、「岩の呼吸 伍ノ型 『瓦輪刑部(がりんぎょうぶ)』」などは、子供が読むことは難しいというよりも、触れる機会すらほぼないだろうという文字の使われ方をしています。

 ここに、『鬼滅の刃』担当編集者の覚悟が見えるのです。

 最近の商業創作物では、分かりやすい表現を使うよう指示・指摘されることが多くなっています。その理由は簡単で、読める人が多くなればなるほど、読者が増える可能性が上がるからです。人は自分が読めないものを無理に読もうとは思わないのです。

 しかし、「生殺与奪の権を他人に握らせるな!」「自分や大事な人の命を、他人に好き勝手させるな!」意味は同じですが、並べてみれば一目瞭然。「生殺与奪」の方が、圧倒的なインパクトを保持しています。

 吾峠呼世晴先生が紡ぎ出す言葉の力、文字の使い方は独特かつハイレベルで、ひとつ間違えれば「よく分からない」と思われてしまう危険性を秘めています。しかしそこを恐れるどころか押し出していく覚悟を担当編集者が持っていたからこそ、『鬼滅の刃』は世に出ることができたのではないと思えるのです。

1 2 3