幻の特撮番組『突撃!ヒューマン!!』斬新な手法で『仮面ライダー』に挑むも、結果は…
子供たちの生の声援で変身。しかし舞台上の演出には制約も

公開番組といえば、その代表格はザ・ドリフターズの「8時だヨ!全員集合」。毎週、各地の市民会館などを巡り、客席を沸かせていましたよね。コント中、背後からの危険に気づかずにいる志村けんさんに向かって会場から「志村、後ろっ~!」と叫ぶのはお約束。舞台も客席も一体化した、熱気渦巻くあの公開番組スタイルを、『突撃!ヒューマン!!』は取り入れたのです。
主人公の岩城はピンチに陥ると、客席の子供たちに変身パワーを送ってくれるように呼びかけます。すると子供たちは、あらかじめ配られていた「ヒューマン・サイン」と呼ばれる円盤をくるくると回して、ヒューマンの変身を助けます。しかも岩城は毎回すぐには変身せず「まだまだエネルギーが足りない!」「もっと回してくれ!」などと子供たちのボルテージをこれでもかと高めるのです。子供たちのナマの声援を受けての変身は、まさに公開番組ならではの醍醐味と言えるでしょう。
しかし公開番組には制約もありました。子供たちが最も興奮する変身シーンは、他番組のように映像処理で一瞬にして姿を変えるということはできません。特撮と分類されはするものの舞台劇であるヒューマンの場合、客席の後方から舞台へと張られた紐を使ってヒューマンの人形を飛ばし、舞台裏に消えたところで、さも今飛んできたような顔をしてヒューマンが現れる……という手間がかけられていました。
また、火薬を使っての派手な爆破シーンなども不可能なため、演出はおのずとイリュージョンやマジックに寄りがち。たとえば、敵のフラッシャー軍団は子供を消すことができるという道具を持っていましたが、これはマジシャンが使う仕掛けで、フラッシャー軍団の一人に本物のマジシャンを配置して操作させていたのだそうです。
『突撃!ヒューマン!!』は制作に手間をかけたにも関わらず、わずか3か月と、その時代の特撮ヒーローものとしては短期番組に終わりました。しかし、子供たちのナマの声援を受けて戦うことのできたヒューマンは、もしかしたら一番幸せなヒーローだったかもしれません。
(古屋啓子)