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精神が削られる「鬱マンガ」3選 心の強さを試したい人にオススメ…

あまりの悲惨な展開に、読んでいて辛くなってくる「鬱マンガ」。しかしそういった作品は、落ち込むとわかっていても、なぜか読みたくなってしまう不思議な魅力を持ち合わせているものです。なかでも“精神的に来る”名作を、厳選してご紹介します。

人間の潜在的な「怖いもの見たさ」を刺激する名作「鬱マンガ」

著:押見修造『血の轍』第1巻(小学館)
著:押見修造『血の轍』第1巻(小学館)

“必ず気分が沈む”と分かっていても、なぜか読みたくなってしまう「鬱マンガ」。自分の心の強さを試したい方々にオススメの、「これ以上ページをめくりたくない……けど続きが気になる」と思わせる名作「鬱マンガ」をご紹介します。
 
 何をするでもなくダラダラと夜ふかしをしてしまったとき、丸一日寝て休日を無駄にしてしまったときなど、自責の念があるときに読めば、さらに破壊力抜群。自分のことを見つめなおすキッカケにもなるかもしれません。

●真鍋昌平『闇金ウシジマくん』

 はじめに紹介するのは、TVドラマ化・映画化もされた大人気マンガ『闇金ウシジマくん』。主人公・丑島馨が経営する闇金融「カウカウファイナンス」に訪れる客たちの人間模様を描いた作品です。さまざまな債務者が登場しますが、待ち受ける結末にはほとんど救いがありません。

 例えば1巻に掲載されている「若い女くん」編では、26歳のOLがメインの登場人物。見栄の張り合いからブランド品を買い漁った結果、闇金であるカウカウファイナンスを訪れてしまいます。「10日で5割」という暴利で瞬く間に借金が膨らみ、風俗で働き始め、それがバレて退社。さらにはストレスから薬物に溺れて痩せ細り、まともに会話もできない廃人へ変わり果てるというバッドエンドを迎えます。

 人々が転落していく過程がリアルに描かれているため、読んでいるとかなり精神的に削られていきます。特に、自分と似たような一面を持つ債務者が出てくると、「自分もこうなってしまうかも……」という不安に襲われるでしょう。お金を主軸にしたストーリーですが、「結局重要なのはお金以外の部分なのかな」というエピソードも多く、考えさせられる作品です。

●押見修造『血の轍』

 続いては、『惡の華』でも知られる押見修造先生の最新作『血の轍』。ごく普通の中学生男子と、ちょっと過保護気味な母親の関係性を描いた作品です。これだけ聞くと「それほど鬱でもないのでは?」と思うかもしれませんが、その素直な気持ちで読み始める方がいい作品かもしれません。

 実際、序盤は結構長い間何も起こらず、淡々と日常が描写されていきます。変わったところがあるとすれば、母親のスキンシップが少し過剰なところぐらいです。このマンガがすごいのは、その序盤でもずっと不穏な空気が表現されていること。登場人物の表情や細かい描写の中に、妙な違和感と生々しさがあり、スリルをもたらしています。

 読み進めていくとどうなるか、詳しくは言えませんが、とにかく凄まじさのあるマンガです。序盤で蓄積されてきた違和感が一気にあふれ、読んでいて思わずため息が漏れます。また、微妙な表情の表現とセリフの重さが尋常ではなく、ページをめくるたびにかなりのカロリーを消費します。普通の作品と比較して、倍近くの時間をかけて読むことになるでしょう。

10分で鬱になる、藤子不二雄A作のブラックな短編

『明日は日曜日そしてまた明後日も……』を収録『藤子不二雄Aブラックユーモア短篇集Vol.3』(中央公論新社)
『明日は日曜日そしてまた明後日も……』を収録『藤子不二雄Aブラックユーモア短篇集Vol.3』(中央公論新社)

●藤子不二雄A『明日は日曜日そしてまた明後日も……』

 最後は、藤子不二雄A先生のブラックな短編作品をご紹介します。短い話ながら、「胸糞の悪さ」はトップクラスです。

 本作の主人公は、気弱で太った青年・田宮坊一郎。就職が決まって初出社の日、世話焼きな母と、ぶっきらぼうながらも息子を心配する父に送り出されます。しかし気弱な坊一郎は、会社の前でなかなか入れずにウロウロ。すると、怪しんだ守衛に怒鳴られ、逃げ出してしまうのです。

 そして「初出社で遅刻なんて……」という思考から、今日はもう行けないと判断。公園で母の手作り弁当を食べ、涙を流します。帰宅すると両親は「息子が一人前になった」と大喜びし、本当のことを言い出せません。

 次の日も無断欠勤の負い目から出社できず、そこからは会社に行ったフリをする日々。ついには親にもバレてしまい、病院では精神病と診断。数年後、坊一郎が薄暗い部屋に閉じこもっている描写で幕を閉じます。

 読み終わると、「最初さえうまくいっていれば……」というもどかしさ、「優しい両親の期待を裏切ってしまった」という胸の痛みでいっぱいになります。ラストの坊一郎の姿は、一度見たら忘れられないほどのインパクトなので、気になった方はぜひ読んでみてください。

(古永家啓輔)

【画像】ページをめくりたくない…でも続きが気になる「鬱マンガ」

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