のむらしんぼ『コロコロ創刊伝説』 子供たちのバイブルの裏にあった、壮絶エピソード
「月刊コロコロコミック」で、『とどろけ!一番』『つるピカハゲ丸』などのヒットを飛ばしたのむらしんぼ先生。現在は大人の「コロコロ」である「コロコロアニキ」で『コロコロ創刊伝説』を連載中です。『コロコロ創刊伝説』では創刊から1990代に起こった出来事が描かれています。
のむらしんぼ先生は還暦を過ぎた現在も健在
のむらしんぼ先生の名前を聞いて、「ああ!」と思い出せる方は、おそらく1980年代から90年代にかけて「月刊コロコロコミック」(以下、コロコロ)を読んでいた方でしょう。子供たちを悩ませるテストや受験をエンタメに昇華した『とどろけ!一番』やTVアニメ化も果たした『つるピカハゲ丸』などのヒットを飛ばしたのむら先生ですが、60歳を超えた今なお現役の漫画家として活躍を続けており、2020年現在は「コロコロ」の大人版「コロコロアニキ」で『コロコロ創刊伝説』を連載中です。
『コロコロ創刊伝説』は1977年の「コロコロ」創刊当時から1990年代にかけて起こったさまざまな出来事について当時の関係者に伺いつつ、のむら先生の回想という形で描かれた作品で、当時人気を博していたコロコロ作品にまつわる創作秘話がたっぷりと盛り込まれています。また、一時は栄華を極めたのむら先生自身の転落エピソードなど重い話題も描かれており、バブル時代に億の単位のお金を稼ぎだしながらも、気づけば借金漬けという厳しい状況に置かれていることすらネタにしています。離婚の際に妻から「あなたマンガと心中したいんでしょ。その望みを叶えてあげます」と言われたエピソードまで明かされていますが、当初のむら先生は自身の苦境を描くのは抵抗があったそうです。しかし編集者の方々の説得により描かれた結果、本作はただの過去を懐かしがるマンガではなく、漫画家という特殊な職業に就いた人間が送る人生の毀誉褒貶(きよほうへん)を描いた文学ともなっていることが、作品としての読みごたえを増しているように思えるのです。
また、マンガ製作においては普段裏方に徹することが多い編集者の方々のエピソードが熱く語られていることも、本作の大きな特徴です。
創刊時の編集部は初代編集長の故・千葉和治(ちば・かずはる)氏と、のむら先生の初代担当編集者である平山隆(ひらやま・たかし)氏のふたりしかおらず、社内の協力者はゼロ。漫画家を集めるのも一苦労で、他の編集部の新人賞に送られてきた没原稿からめぼしい人材を発掘するところからスタートしています。漫画家・島本和彦先生の自伝的作品『アオイホノオ』でもほぼ同様のエピソードが語られており、1980年代の新人漫画家はどのように発掘されていたのかを伺い知ることができます。