声優・井上真樹夫氏追悼 ハーロック、石川五ェ門…大人の男の生きざまを演じた
『巨人の星』での古谷徹氏との関係、「生涯現役」Twitterも開設

さて、井上氏が演じた代表的なキャラクターのひとつが、先述したTVアニメ『巨人の星』の花形満です。主人公・星飛雄馬のライバルとして子供時代からプロ野球まで張り合い続けるなかで、飛雄馬の姉である明子と愛し合うようになり結婚し義兄となるなど、どこまでも飛雄馬と運命を共にしていたキャラクターでした。
井上氏が花形を演じたとき、ライバル役である主演の古谷徹氏とは距離を置いていた、という話がしばしば井上氏のプロ意識を語る際に持ち出されており、筆者も信じておりました。しかしこの話は、実は少し違うことが、2017年のインタビューで井上氏自らが明かしています。
『巨人の星』の収録時、古谷氏は中学生から高校生くらいで、井上氏は30歳前後と年齢差があったため、単に「話題がなかった」だけなのだそうです。しかもこの時期の井上氏はスナックを経営しており、収録が終わるとすぐに店に出なければならなかったので、付き合いを深める時間もなかったというのが真相でした。とはいえまだ若い古谷氏にとって、倍近い年齢の先輩が自分となかなか話してくれないという状況は非常にプレッシャーがかかるものだったことは容易に察しが付きます。もしこのとき古谷氏が20歳を超えていたら普通にお店に誘われていたかもしれませんが、それは歴史のifなのでしょう。
井上氏が死んでちょうど1年が経ちますが、つい先日『ルパン三世 カリオストロの城』のTV放送を見たばかりということもあり、亡くなった実感は今でもまったく湧きません。2013年頃からは魅力的な老人役として多くのドラマに出演し、島本和彦先生原作の『アオイホノオ』のTVドラマでは作中でハーロックを演じるなど、精力的な活動を続けていた井上氏は、2019年7月には「生涯現役プロジェクト」を掲げ10月には公式Twitterアカウントを開設するなど、まだまだこれから一花も二花も咲かせてみせようという気概を前面に押し出していました。謹んでご冥福を祈るとともに、たくさんの大人の男の生きざまを見せて下さったことに、感謝の気持ちを述べさせていただきます。
本当にありがとうございました。
(早川清一朗)