劇場版『鬼滅の刃』は映画史を変える?308億円『千と千尋』が招いた「社会現象」との違い
大ヒット公開中の『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』が国内興収2位となり、300億円の大台を目前としています。新型コロナの感染拡大を抑えるためのロックダウンなどがなければ、宮崎駿監督の『千と千尋の神隠し』が打ち立てた国内興収1位の大記録・308億円を上回りそうな勢いです。社会現象と呼ばれるほどのメガヒット作が生まれる要因を探ります。
12月中に映画の興行史が変わる?
歴史が動く瞬間が、年内に訪れる可能性が高まってきました。2020年10月16日から公開が始まった『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』は、連続7週にわたって国内興収トップを走り、11月30日の時点で興収275億円という大ヒットとなっています。
近日中に、300億円の大台に乗ることは確実。入場者特典となる特製イラストカードが12月12日(土)、26日(土)に配布されることもあり、宮崎駿監督が『千と千尋の神隠し』(2001年)で打ち立てた国内興収1位である308億円という大記録も更新しそうです。
宮崎監督が『千と千尋』で残した大記録は、19年前に達成されたもの。同じアニメーション作品でも、大ヒットした要因や環境は大きく異なります。『千と千尋』が公開された当時と、『鬼滅の刃』が大ブームとなっている現代の社会状況を比べてみたいと思います。
強烈だった、『千と千尋』製作委員会各社の宣伝攻勢
1970年代~80年代の日本映画界は、長らく低迷期にありました。90年代になるとテレビ局が積極的に映画制作に参入するようになり、電通や博報堂といった大手広告代理店、出版社などと提携した「製作委員会方式」が広まります。安定した興収が期待できることから、日本独自のこのシステムを国内の映画配給会社も喜んで受け入れました。同時に各地にシネマコンプレックスが次々と建てられ、映画を快適に楽しむ環境が整備されていきました。
ゴージャスさのあるハリウッド作品などの洋画に比べると、それまでは地味で見劣り感のあった日本映画ですが、作品のクオリティ、スケールの大きさかつ多層的な世界観、抜群のエンターテイメント性で観客を魅了したのが、全盛期を迎えた宮崎駿監督の劇場アニメーション作品でした。『天空の城ラピュタ』(1986年)を皮切りとするスタジオジブリ作品は、次第に映画界を席巻していきます。宮崎ワールドの集大成として位置付けられた『もののけ姫』(1997年)は、当時の日本興収記録を塗り替える193億円という大ヒット作となりました。
宮崎監督の新作に対する期待感が高まるなか、2001年7月に『千と千尋の神隠し』が公開されました。公開に合わせる形で「製作委員会」に参加していた日本テレビは連日のように特番を放送し、電通をはじめとする「製作委員会」各社によるCMスポットや新聞広告、コンビニでのキャンペーンなど、すさまじいほどの宣伝攻勢が繰り広げられました。