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劇場版『鬼滅の刃』は映画史を変える?308億円『千と千尋』が招いた「社会現象」との違い

『千と千尋』以降、スタジオジブリに訪れた変化

『千と千尋の神隠し』通常版DVD(ブエナ・ビスタ・ホーム・エンターテイメント)
『千と千尋の神隠し』通常版DVD(ブエナ・ビスタ・ホーム・エンターテイメント)

 宮崎監督の『千と千尋』が大ヒットした時代は、今のようにSNSがまだ普及していませんでしたが、かつてない規模の宣伝戦略が功を奏し、『千と千尋』は308億円という前人未到の大記録を生み出しました。興収面だけでなく、内容も高く評価され、社会派作品を重視するベルリン国際映画祭では、アニメ作品としては初となる「金熊賞」(最高賞)、米国の本場アカデミー賞でも「長編アニメ賞」を受賞します。

 しかし、当の宮崎監督は記録的な大ヒットという結果を、クールに受け止めていたようです。多くの人が関わっている作品を興行的に成功させることはとても大切なことですが、アニメーション作家個人としては、作品に込めたメッセージがきちんと観客に届いているかどうかの方が、より重要だったのではないでしょうか。

 さまざまな面で頂点を極めた『千と千尋』は、スタジオジブリにも転機を招きました。『千と千尋』があまりにも大ヒットしたために、同時期に公開された他の作品たちの上映の機会を奪ってしまったことを反省し、『ハウルの動く城』(2004年)以降は、宣伝展開をトーンダウンさせることになります。価値観や文化の多様性を尊ぶ、宮崎監督らしい判断でした。

劇場映画が「社会現象化」する条件とは?

 興行とは、まさに「生き物」です。良作なのに人知れず消えてしまう作品もあれば、大衆心理に働きかけることで予想外の大ヒット作に大化けする作品もあります。『千と千尋』が制作されていた2000年前後は、西鉄バスジャック事件などの未成年者による凶悪犯罪が多発し、公開から間もない2001年9月にはNYで同時多発テロが起きています。異世界に迷い込んだ少女・千尋がひたむきに働く姿は、観る人に心地よい安心感を与えました。

 また、250億円を超える大ヒットとなった新海誠監督の『君の名は。』(2016年)は、2011年に起きた東日本大震災がモチーフになっています。もしも、自分が被災当事者だったら……という観客の深層心理に訴えかけるものがありました。観客の心と作品がリンクするとき、社会現象化するほどの大ブームが生まれるのです。

 吾峠呼世晴氏の原作コミック『鬼滅の刃』第7~8巻をアニメーション化した『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』が爆発的ヒットとなっている理由に、原作の面白さ、制作会社「ufotable」の作画力の高さ、声優陣の熱演ぶりに加え、コロナ禍によって洋画の配給作品が乏しく、多くのスクリーンでの上映が可能だった……という外的要因も挙げられています。ちなみに『無限列車編』は『千と千尋』『君の名は。』と違って、「製作委員会方式」ではありません。

 劇場では、多くの観客が炎柱・煉獄杏寿郎の熱き戦いぶりに涙を流しています。「強く生まれた者の責務」をまっとうしてみせる杏寿郎のようなメンター(指導者)への憧れが、私たちにはあるのではないでしょうか。不透明で先行きの見えない現代社会において、杏寿郎のような信念を貫く上司や先輩がいてくれれば、どんなに心強いことでしょう。

 アニメーション制作は、実写映画とは違い、まっさらな白紙の状態から新しい世界を創り出す作業です。大変な労力を要しますが、新しく創り出された世界には、その時代の空気が反映され、アニメーターや声優たちの願いや理想も込められることになります。さまざまな人たちの想いを燃料にして、『無限列車』はコロナ禍にあえぐ映画興行界を走っています。

『無限列車』はどこまで走っていくのでしょうか。コロナ対策をしっかりした上で、『無限列車』の行く先を見守りたいと思います。

(長野辰次)

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