『Q』公開で困惑した観客 『シン・エヴァンゲリオン劇場版』は期待に応えられるか
2012年11月17日、『エヴァンゲリヲン新劇場版』の第三作『Q』が公開されました。第一作『序』、第二作『破』によって最大限にまで高められた期待により多くのファンが劇場へと足を運びましたが、その凄惨な内容に困惑する観客が続出しました。
『エヴァQ』公開で呆然…殺到した問い合わせ
「自分は、今、何を観たのだろうか」
『エヴァンゲリヲン新劇場版:Q』(以下、Q)を見終えたとき、筆者はしばらく座席から立ち上がれませんでした。それほど強烈なショックを受けたのです。第一作『序』はTVシリーズをブラッシュアップした文字通り新世紀の『エヴァンゲリオン』(以下、エヴァ)を、第二作『破』はエンターテイメントを追求した娯楽としての『エヴァ』を見せてくれていました。『破』でエヴァ3号機に呑まれたアスカも予告編では登場していたし安心だ。さあ次はどんなものを見せてくれるのだろう……。
その期待は、裏切られました。
確かに『破』を見返してみれば、サードインパクトにつながる内容ではありました。しかし2006年に庵野秀明総監督(以下、庵野監督)が新劇場版の制作にあたり出した所信表明には、「『エヴァンゲリオン』を知らない人たちが触れやすいよう、劇場用映画として面白さを凝縮し、世界観を再構築し、誰もが楽しめるエンターテインメント映像を目指します」とあります。『Q』では、冒頭の戦闘シーンは素晴らしかったものの、その後は陰惨な描写が続きます。
『破』でシンジが綾波を呼んだ魂の叫びは何の意味も持たないどころか最悪の事態を引き起こし、画面は赤と黒に染め上げられ、床には巨大な頭蓋骨が一面に敷き詰められていたのです。これは誰もが楽しめるエンターテインメントなのだろうか? という疑問は、今も払しょくされてはいません。
それからしばらく、アニメ系ライターとして活動していた筆者の携帯には友人からの問い合わせが殺到しました。みんな答えを求めていましたが、筆者自身、何も答える術を持っていなかったのです。
後に庵野監督は『Q』の制作後、ひどいうつ病を患い、自身が設立したアニメ制作スタジオ「カラー」に近寄ることすらできなくなったことを明かしています。確証はありませんが、庵野監督は制作後ではなく、制作中からうつ状態になっており、当時の心理状態が『Q』に投影されてしまった可能性もあります。