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手塚治虫の新聞連載作品は「愛らしかった」? 当時の紙面のまま復刻した編集者に聞く

膨大な手塚治虫作品のなかには、雑誌よりも多くの一般大衆が手に取る新聞に連載された作品がいくつかあります。それらを連載当時のオリジナル版として収録した単行本『手塚治虫コミックストリップス』を見ると、新聞ならではの構成や描き方、そして物語に、さまざまな特徴を感じ取ることができます。

奇跡的に残された、連載当時のままの原稿

『手塚治虫コミックストリップス』(888ブックス)のスリーブケース
『手塚治虫コミックストリップス』(888ブックス)のスリーブケース

「マンガの神様」手塚治虫は、マンガ雑誌での連載などと並行して、新聞でもさまざまな連載作品を執筆していました。朝日新聞、中日新聞、赤旗日曜版、少年少女新聞など、さまざまな媒体で連載された手塚治虫の作品を、連載当時と同じオリジナル版として収録した『手塚治虫コミックストリップス』(888ブックス)が発売されています。

 同書に掲載されている連載当時のマンガからは、独特の親しみやすい雰囲気を感じ取ることができます。手塚治虫の新聞連載にはどのような特徴や魅力があるのか、同書の企画・編集を手掛けた濱田髙志さんに聞きました。

* * *

ーー今回『手塚治虫コミック・ストリップス』に収録された作品の多くは、新聞連載当時の原稿をもとに復刻されたそうですね。これは非常に珍しいケースなのでしょうか?

濱田髙志(以下、濱田) 手塚先生は作品を単行本化する際に、原稿を切り貼りして新たに原稿を再構成することが多く、初出時のままの原稿が残されているのは稀なんです。

 改編の理由はさまざまですが、例えば、連載時は締め切りに間に合わせるために思うように描ききれなかった部分を追加したり、その時代に即したセリフや時事ネタを上書きしたり……。あるいは、連載媒体ではコマの段組が三段だったものを単行本化の際に四段に変えたり、前回とのつながりをスムースにするために、扉ページや前回のあらすじを説明したコマをカットして描き足したりしています。

 ところが、今回収録した『タイガーランド』(1974年)と『アバンチュール21』(1970年)については、原稿をコピーしたものを使って改編作業が行なわれていたため、初出時のままの状態の原稿が残されていたんです。これまでの単行本は改変された原稿を使用した出版でしたが、初出時のオリジナル原稿を使用して単行本が作られるのは、今回が初めてなんですよ。

ーー連載当時、新聞で読んでいた方にとっては特に貴重な復刻になりますね。

濱田 連載時に毎回楽しみに読んでいた読者にとって、初出時の印象はずっと残っていますし、できれば当時の状態のまま読んでみたいという方も多いと思うんですね。ただ、新聞となると掲載紙を再び手に入れるのが困難ですし、それこそ図書館で閉架棚から引き出したり、マイクロフィルムから複写するしか収集する術がありません。何しろ1号も欠けることなく、通年分がまとまって古書市場に出回る機会は少ないですから。

ーー連載当時の新聞を読んでいなかった読者も楽しめる要素としては、どんなところが挙げられますでしょうか?

濱田 まず紙面が大きい分、迫力があります。本書は3分冊から成る作品集ですが、そのうちの2冊は新聞掲載時と同サイズで、うち1冊は見開き80センチもあるんです。また作品によっては、初出時、吹き出しのなかのセリフがすべて手塚先生自身による書き文字でしたから、今回はそれも再現しています。手塚先生の書き文字って、どこかぬくもりがあって読みやすいんですよ。

 単行本化の際にカットされた場面も複数ありますし、連載時ご覧になっていない読者にとっては、はじめて目にする場面が多いと思います。『手塚治虫漫画全集』などの既刊と並べて読むと、その大胆な再構成に驚かれるのではないでしょうか。

【画像】家族で楽しめる作品も…復刻された手塚治虫の新聞連載作品(7枚)

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