アニメと異なる道を進んだ、漫画『風の谷のナウシカ』。残酷さと絶望に挑んだ理由とは
2020年最後の「金曜ロードSHOW!」として放送される劇場アニメーション『風の谷のナウシカ』。その感動的なラストシーンに満足できなかった人がいました。宮崎駿監督です。そして、それから10年にわたる連載を経て完結した漫画『風の谷のナウシカ』は、アニメとは全く異なる作品になっていました。根を同じくした2つの作品はなぜ違う道を進んだのか、考察していきます。
宮崎監督は満足していなかった、ラストシーンの「奇跡」
2020年最後の「金曜ロードSHOW!」を飾る作品として、宮崎駿監督の劇場アニメーション『風の谷のナウシカ』(以下、アニメ『ナウシカ』)が放送されます。「マスクをしないと生きられない世界で、一人の少女が未曽有の危機に立ち向かう―。今だからこそ見て欲しい、未来に希望を繋ぐ宮崎駿監督の名作です」と、同番組の公式サイトは紹介しています。
確かに、ラストで王蟲に跳ね飛ばされたはずのナウシカがよみがえり、伝説の「青き衣を身にまといし者」を再現する場面は、希望に満ちて感動的な場面でした。
ところが、このラストシーンに満足できなかった人がいました。宮崎駿監督です。封切り翌日の1984年3月12日に受けたインタビューで、宮崎駿監督はこう語っています。
「ナウシカが王蟲に持ち上げられて朝の光で金色に染まると、宗教絵画になっちゃうんですよね!(笑)(中略)あれ以外の方法はなかったかと、ずっと考えているんです」
(ロマンアルバム『風の谷のナウシカ』徳間書店・刊より)
もともと宮崎駿監督は、ナウシカの前で王蟲の大群が止まって終わりたかったけれど、映画としての盛り上がりを考えた鈴木敏夫プロデューサーと高畑勲プロデューサーから説得されて、現在の形に変更したそうです。
このアニメ『ナウシカ』でのラストシーンでの違和感を、その後10年近くにわたり追求し、宮崎駿監督の創作におけるターニングポイントとなった作品が、マンガ『風の谷のナウシカ』(以下、マンガ『ナウシカ』)です。
評論家の立花隆氏から「ドストエフスキーの『カラマーゾフの兄弟』とか埴谷雄高の『死霊』のような摩訶不思議な哲学的小説並みのディープきわまりない世界」と評されるマンガ『ナウシカ』は、ご存じのとおりアニメ『ナウシカ』の原作に相当する作品で、アニメージュ1982年2月号に連載を開始し、たびたびの休載を挟みながら1994年3月号で完結しました。
アニメ『ナウシカ』の制作に入るまでに発表されていたのは、単行本全7巻のうち3巻の初めまでで、アニメ『ナウシカ』の物語は2巻半ばまでをベースに再構成されたものです。マンガとアニメでは内容・設定ともにさまざまな違いが見られますが、大きな違いは各国の関係と巨神兵のあつかいです。