劇場アニメ『えんとつ町のプペル』 ものづくりの「常識」への挑戦が詰まった作品
絵本作家としても活躍するお笑いタレント・西野亮廣さんの『えんとつ町のプペル』が、劇場アニメーション化されました。業界の常識にとらわれない言動から、たびたびSNS上で炎上騒ぎを起こしてきた西野さんですが、そんな西野さんの実体験が投影された物語となっています。1冊の絵本に込められた西野さんの想いとは……?
さまざまな常識を破った1冊の絵本
お笑いタレントの西野亮廣さんが製作総指揮した劇場アニメ『映画 えんとつ街のプペル』が、2020年12月25日より全国公開されています。2016年に西野さんが「にしのあきひろ」名義で発表し、55万部のベストセラーとなった絵本『えんとつ町のプペル』(幻冬舎)が原作となっています。5000部売れればヒットとされる絵本業界の常識を覆したことで、大変な話題を呼びました。
劇場アニメ化にあたり、西野さんは原作&製作総指揮に加え、脚本も担当。西野さんがリスペクトする漫画家・松本大洋氏の人気コミック『鉄コン筋クリート』(小学館)を劇場アニメ化した、「スタジオ4°C」が制作を手がけています。窪田正孝さん、芦田愛菜さん、伊藤沙莉さんら人気キャストを声優として起用していることでも、注目を集めています。
1冊の絵本が予想外の反響を呼び、全国公開の劇場アニメになるという大きなプロジェクトに至るまで、どのような経緯があったのでしょうか。
お笑いコンビ「キングコング」として売れっ子になった西野さんですが、絵本作家としてのキャリアもすでに10年以上になります。タモリさんが電話で話したアイデアを原案にした『オルゴールワールド』(幻冬舎)など、ボールペン1本で緻密に描き上げたモノクロ画は目を見張るものがありました。
絵本作家として着実に実績を残してきた西野さんは、制作に4年半を費やした『えんとつ町のプペル』からスタイルを一変させます。それまでのモノクロ画から、華やかなフルカラーとなり、絵のタッチも変わります。ひとりで絵本を作っていた西野さんですが、『えんとつ町のプペル』から分業制を取り入れたのです。
ストーリーと絵コンテは西野さんが担当し、絵は総勢35名のクリエイターたちがそれぞれ得意なパートを手分けして描いています。マンガやアニメーションの世界では常識となっている分業制は、昔ながらのスタイルを続けてきた絵本業界では異例のものでした。
制作費はクラウドファンディングで調達するという、話題性十分な絵本『えんとつ街のプペル』は、すぐに20万部を超える大ヒットとなりました。さらに西野さんは、発売から3か月後にはネット上で全ページの無料公開に踏み切ります。「絵本を分業化すると、作家性が失なわれる」「作品の無料公開は、クリエイターたちを食いっぱぐれさせてしまう」など、西野さんはさまざまな批判を浴びました。
でも、西野さんには確信がありました。西野さんが執筆したビジネス書『革命のファンファーレ 現代のお金と広告』(幻冬舎)では、【お客さんの手に届くまでの導線作りも、作品制作の一つだ。導線作りができていない作品は「未完成品」という認識を持った方がいい。】と述べています。【反対派のエネルギーほど使えるものはない。アンチを手放してはいけない】とも語っています。
話題の絵本がネット上で無料公開されたことは大きなニュースとなり、売上げをぐんと伸ばしました。参加したスタッフにボーナスを渡すこともできたそうです。分業制で作られた『えんとつ街のプペル』は、さらに多くのクリエイターたちを巻き込む形で、劇場アニメ化されることになったのです。