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劇場アニメ『えんとつ町のプペル』 ものづくりの「常識」への挑戦が詰まった作品

劇場アニメは、原作とはかなり違った展開に

絵本『えんとつ街のプペル』の特徴だった、独特のカラフルな世界観は映画でも存分に楽しめる
絵本『えんとつ街のプペル』の特徴だった、独特のカラフルな世界観は映画でも存分に楽しめる

 原作となった絵本も劇場アニメも、煙突だらけで厚い煙に覆われている「えんとつ街」が舞台となっています。煙突掃除屋として働く少年・ルビッチ(CV:芦田愛菜)は、ハロウィンの夜にゴミ山から生まれたゴミ人間のプペル(CV:窪田正孝)と出逢います。体から嫌な臭いを漂わせている嫌われ者のプペルですが、ルビッチには友達がいないことから、ふたりは仲良くなっていきます。

 ルビッチは、亡くなった父親から煙に覆われた空の上には「星」があることを教えられていました。でも、街の人たちは煙に覆われた空しか知らないので、「星」の存在を信じようとしません。ルビッチのことを信じるのは、プペルだけです。やがて、2人は「星」があることを確かめるために冒険へと旅立つのです。

 劇場アニメ版には、おしゃべりな鉱山泥棒のスコップ(CV:藤森慎吾)やプペルを追い回す「異端審問官」たちが登場し、絵本にはなかったエピソードも描かれています。西野さんは当初から映画化を想定しており、絵本で描いたのは一部分でしかなかったそうです。

「お金」は使わないと腐っていく?

 絵本とは異なる展開を見せる劇場アニメ版ですが、メインテーマは同じです。周囲から笑われても、バカにされても、自分が信じる道を突き進めば、やがて道は開けていく……というものです。空気を読むことばかりが重んじられる社会では、新しい発想や発見は生まれません。空気は次第に淀んでいきます。SNS上で炎上しても、自分流のスタイルを築いて進んでいく西野さん自身の実体験が投影されています。

 他にも劇場アニメ版には、「腐るお金」というユニークなアイデアも盛り込まれています。これはドイツの経済学者シルビオ・ゲゼルが提唱した「自由貨幣」をヒントにしたものです。お金は実際に使うことで価値が生じる、という考えに基づいています。同じように、西野さんも自分が「面白い!」と思いついたアイデアは、実行に移さずにはいられないのでしょう。頭の中にあるアイデアは形にし、他人と共有することで、初めて価値を生み出すことになります。

 西野さんは以前から「打倒ディズニー」を公言しています。『えんとつ街のプペル』の劇場アニメ化だけでなく、第2、第3のプロジェクトも考えていることでしょう。これからのエンタメ界を担う新感覚のクリエイターとして、注目したい存在です。

 一方で、ボールペン1本で描いていた頃の西野さんの初期衝動たっぷりな絵本も、捨てがたい魅力があります。1枚の絵を描き上げるのに、どれだけの時間と情熱を注いだのでしょうか。トークスキルに優れ、SNSを巧みに駆使する西野さんですが、自分を見つめるひとりぼっちの時間も大切にしているように感じられます。

(長野辰次)

●『映画 えんとつ町のプペル』
製作総指揮・原作・脚本/西野亮廣 監督/廣田裕介
声の出演/窪田正孝、芦田愛菜、立川志の輔、小池栄子、藤森慎吾、野間口徹、伊藤沙莉、宮根誠司、大平祥生(JO1)、飯尾和樹(ずん)、山内圭哉、國村隼
配給/東宝=吉本興業 12月25日(金)より全国ロードショー
(c)西野亮廣/「映画えんとつ町のプペル」製作委員会
https://poupelle.com

●『映画 えんとつ町のプぺル』予告1(東宝公式)

【画像】独特すぎる世界観!『映画 えんとつ町のプぺル』のシーン(8枚)

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