『快傑ズバット』放送から44年。高い人気を支えた「ワンパターンの美学」とは?
「変身前」でも活躍できる環境があった

変身前のヒーローが活躍できる環境、それは本作が特撮番組に必ずいる怪人がいないことが大きく影響していました(怪しい人、という意味の怪人はいますが)。
これはスタッフから以前お聞きした話ですが、ヒーロー番組はいつも着ぐるみを倒しているだけのワンパターン番組と批判され、「それならば着ぐるみ以外の敵を倒す番組にする」という思惑があったそうです。
そのため本作では着ぐるみではない悪の組織のボスとその用心棒という悪役が用意され、結果的に変身前の早川健の出番が多くなりました。
本作はよく小林旭の「渡り鳥シリーズ」の影響が強いと言われています。製作スタッフも参考にしていたのでそれは間違いないのですが、筆者は時代劇のパターンに似ている点も、作品の高評価につながっていると考えていました。
なぜなら本作は時代劇のお約束である、一定のパターンで物語が進んでいたからです。
・まず序盤、用心棒と接触した早川健が、用心棒の得意技で勝負して勝つ。
・そして悪事が進むなか、早川健が危機におちいり姿を消す。
・終盤、ズバッカーに乗ったズバットが名乗りとともに現れる。
・悪党を倒したズバットが、ボスに「飛鳥を殺したか」と問い詰める。
・騒動を知った警官隊が駆けつけると、犯罪名を書かれたカードがボスの上に置かれて一件落着。
毎回、このような感じで物語は進みました。前後編の前編でない限り、この安定の展開で始まって終わります。例えば『水戸黄門』で印籠が出される、『大岡越前』で越前が裁きを始める……というように、終盤は安心して見られる王道パターン。ズバットは毎回ピンチになることなく、それまで悪事をさんざんやってきた悪党どもをなぎ倒すという、カタルシスあふれる最後でした。
時代劇を「ワンパターンの美学」と評する人がいます。それを考えれば本作の面白さもそこにあるといえます。「宮内さんという役者の活躍を毎週見られる」ということが、作品の評価に直結していました。この点も、本作が高い年齢層に好評だった理由かもしれません。
しかし、作品的には成功して視聴率も高かった本作でしたが、オモチャの売れ行きが悪かったため、放送は打ち切りとなってしまいます。
本作は再放送が多く、宮内さんの演技も他作品以上にインパクトがあるので、代表作と感じる人も少なくありません。しかも、この後に放送された『スパイダーマン』や『宇宙刑事ギャバン』で宮内さんがゲスト出演した際、早川健と同じ黒のウェスタンルックだったことから、さらにそのイメージは強いことと思います。
記録ではなく記憶に残る作品。『快傑ズバット』はまさにそんな作品でした。
(加々美利治)