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『パプリカ』の今敏監督の没後10年…未完の映画『夢みる機械』はどうなったのか?

アニメ界の鬼才・今敏(こん・さとし)監督がこの世を去って10年が経過しました。代表作『パプリカ』は計り知れない影響を映画人たちに与え、誰もが次作を待ち望んだなか、46歳の若さで急逝。完成することはなかった映画『夢みる機械』はどうなったのか。生前に監督が残した言葉から紐解いてみます。

監督の逝去後もプロジェクトは継続したが…

世界のクリエイターに影響を与えた、今敏監督による『パプリカ』 (C)2006 MADHOUSE/SONY PICTURES ENTERTAINMENT(JAPAN)INC.
世界のクリエイターに影響を与えた、今敏監督による『パプリカ』 (C)2006 MADHOUSE/SONY PICTURES ENTERTAINMENT(JAPAN)INC.

 今敏(こん・さとし)監督がこの世を去って10年が経ち、昨年2020年は各地で追悼上映が行われました。アニメ通ではない方のなかにはピンと来ない方もいるかもしれませんが、今敏監督は90年代以降、宮崎駿・押井守らと並び、世界的に評価されたアニメ監督です。

『パーフェクトブルー』、『千年女優』、『東京ゴッドファーザーズ』、『パプリカ』の長編映画4本と全13話のテレビシリーズ『妄想代理人』を世に送り出したのち、2010年に膵臓癌のため46歳の若さで亡くなりました。

 今敏監督の作風は“虚構と現実が交錯する世界”と表現されています。まさにその集大成となったのが2006年公開の映画『パプリカ』。筒井康隆氏の小説を原作に製作され、今敏監督によってストーリーが脚色された同作は、「他人と夢を共有できる装置」が悪用されたことで起こる事件が発生し、夢のなかで活動する探偵・パプリカたちが犯人を追う物語です。

 制作にあたって重要視されたのは、“映像”だと監督は語っています。今敏監督の公式HPである「KON‘S TONE」に掲載されている監督の言葉では、「映像はよりよくストーリーを語るための手段であると考えていましたが、『パプリカ』ではその主従関係を逆転し、映像イメージを見せることを主眼としていました」と述べられています。

 その言葉通り、作中で象徴的なのが“パレード”のシーンが冒頭から幾度も登場していること。家電や信号、標識から地蔵や鳥居など宗教的なものが練り歩くパレードは夢の中の混沌とした世界を表しています。色鮮やかに描かれたパレードは、見る人によっては怖さを覚えるでしょう。

『パプリカ』は数々の賞を受賞し、映画人たちに影響を与えました。他人の夢に侵入し、秘密を抜き取る産業スパイをテーマにした映画『インセプション』(2010年)にも多大な影響を与えており、監督のクリストファー・ノーランも『パプリカ』にインスピレーションを受けたと語っています。

 今監督が晩年、「一番の心残り」と語っていたのが、映画『夢みる機械』です。2006年の『パプリカ』公開前から構想が練られていたものの、完成まで至らなかった、いわば未完の作品。当時、公式サイトもオープンし、生物がいなくなった未来の世界で、ロボットたちが彼方にある「電気の国」を目指して旅をするストーリーが描かれるはずでした。

 脚本と絵コンテ、フィルムの一部は完成していたものの、制作の途中で今敏監督が逝去。その後は、これまでの作品でタッグを組んできたアニメスタジオ「マッドハウス」の丸山正雄氏が作品を完成させるべくプロジェクトを動かしてきました。

 2016年のインタビューによると、丸山氏は4~5年ほど後を継いでくれる人を探してきたが、最終的には『夢みる機械』は今敏の作品であるべき……という決断に至り、プロジェクトは終了。今敏監督自身も「KON‘S TONE」では、「今敏が原作、脚本、キャラクターと世界観設定、絵コンテ、音楽イメージ…ありとあらゆるイメージソースを抱え込んでいる」「基本的には今敏でなければ分からない、作れないことばかりの内容だ」と語っていました。監督への敬意を表しての「未完」となったようです。

 以降、製作に関する続報はありませんが、『夢みる機械』は、永遠に叶わないかもしれないが、永遠にワクワクさせてくる感覚を、私たちに残してくれました。『パプリカ』など、今監督が私たちに残してくれた作品たちを楽しんで、いまだ完成していない『夢みる機械』に思いを馳せてみてはいかがでしょう?

(椎名治仁)

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