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手塚治虫が描いた異色恋愛マンガ3選。普通でない「愛」だからこそ切ない…?

初恋の相手は、なんとラブドール…!

『ロビオとロビエット』が収録された、『鉄腕アトム』Kindle版14巻(手塚プロダクション)
『ロビオとロビエット』が収録された、『鉄腕アトム』Kindle版14巻(手塚プロダクション)

 さらに強烈なヒロインが登場するのが、『やけっぱちのマリア』です。1970年に「週刊少年チャンピオン」で連載された恋愛コメディです。中学に通う主人公・焼野矢八の恋人は、なんとビニール製のラブドール。当時はダッチワイフと呼ばれていた空気人形です。連載時には福岡県児童福祉審議会が有害図書に指定するなど、大変な波紋を招いた異色作です。

 矢八は幼い頃に母親を亡くし、父親とのふたり暮らしでした。亡き母を想う矢八の寂しい気持ちがエクトプラズムとして鼻から抜け出し、父親が持っていたラブドールに宿ります。動き出したラブドールは「マリア」と名づけられ、矢八と同じ中学校に通うことになります。絶世の美女であるマリアに、学校中の男子生徒も男性教師もぞっこん。不良グループを巻き込んだ、ドタバタ展開となっていきます。

 最初はマリアのことを異性としては意識していなかった矢八ですが、マリアに慕われているうちに愛情が湧いてきます。マリアには亡くなった母親の面影があり、矢八にとってのアニマ(理想の女性)的な存在でした。しかし、ビニール製のマリアは破れやすく、その命は限られています。はかない命ゆえに、矢八はマリアをより深く愛するようになるのです。

 医大卒の手塚先生が若い読者への性教育を意図して描いた作品だけに、性や出産のメカニズムについても詳しく解説されています。黒魔術を操る魔女と作家との危険な恋愛を描いた『ばるぼら』は、二階堂ふみさんと稲垣吾郎さんの共演作として2020年に実写映画化されているので、『やけっぱちのマリア』も実写化してほしいものです。

永遠の愛で結ばれるロボットたち

 最後に紹介するのは、『鉄腕アトム』の一編『ロビオとロビエット』。シェークスピアの戯曲『ロミオとジュリエット』をベースに、1965年に発表された作品です。ラストのひとコマが、強烈な印象を与えます。

 アトムやウランも登場しますが、物語の中心になるのは高性能ロボットのロビオとロビエットです。代々にわたって競うようにロボットを開発してきた矢似家と井塩家は仲が悪く、そのため両家が製造したロボットたちも対立していました。そんななか、矢似家の当主が実の娘同然にかわいがる女性型ロボットのロビエットと井塩家の当主が精魂を注ぎ込んだ男性型ロボットのロビオは出逢い、強い力で惹かれ合うようになります。

 矢似家と井塩家の抗争は、カーレースを経て、エスカレートしていくばかり。アトムやお茶の水博士が仲裁しようとしても、両家は耳を貸そうとしません。無益な争いを止めさせたい。ロビオとロビエットはともに体を張り、ロボットとしての機能も形状も失うことになります。でも、ふたりは思いがけない形で、永遠の愛で結ばれるのでした。

 手塚先生は仕事の合間にチョコレートを食べることを楽しみにしていたそうです。チョコレートの持つ官能的な甘さが、これらの恋愛マンガを生み出したのかもしれません。手塚マンガを読むと、愛にはいろんな形があることが分かります。どの愛も尊いものとして、手塚先生は愛情いっぱいに描いています。

(長野辰次)

【画像】手塚治虫が大作シリーズで描いた、さまざまな「永遠の愛」(6枚)

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