『DQV』主人公、シリーズ屈指の苦労人 ビアンカかフローラかどころじゃない凄絶人生
「ビアンカかフローラか……」結婚イベントばかりが強調されるものの、生後すぐに母親が魔物にされらわれ父親とは死別。10年の奴隷生活の後には8年「石像」として無為な時間を過ごす……。スーパーファミコン用ソフト『ドラゴンクエストV 天空の花嫁』の主人公の、波瀾万丈すぎる運命を振り返ります。
ビアンカ? フローラ? 一見して恵まれた主人公に思えてしまうが…
「『ビアンカ』と『フローラ』どっちを選んだか」
スーパーファミコン用ソフト『ドラゴンクエストV 天空の花嫁』(以下、ドラクエV)のファンの間で、この議論が何度繰り返されたことか分かりません。
王族に生まれた主人公が冒険の途中、幼なじみの「ビアンカ」とお嬢様の「フローラ」、どちらかから伴侶を選ぶ「結婚」イベントの正解は、『ドラクエV』が1992年に発売されてから30年近くが経った今でも導き出されることはないでしょう。
2008年に発売されたニンテンドーDS版では、新たな花嫁候補にフローラの姉「デボラ」も加わりました。
「結婚」イベントだけを切り取れば『ドラクエV』の主人公は、恵まれた星のもとに生まれたヒーローのように”錯覚”してしまうかもしれません。
正確には、この「結婚」イベントが強調されるからこそ霞みがちになってしまうのですが……『ドラクエV』の主人公は、「ドラゴンクエスト」(以下、ドラクエ)シリーズのなかでも壮絶すぎる人生を辿ったキャラクターであることを忘れてはなりません。
彼が魔物に虐げられる運命は、出生した瞬間から始まります。
『ドラクエV』の冒険は、主人公を産んだ直後に魔物にさらわれてしまう母親・マーサを魔の手から救いだすことを目的に始まるのです。
そして、「ドラクエ」シリーズ屈指の「トラウマシーン」はストーリー序盤に訪れます。
歴戦の勇士、父・パパスが幼い主人公の目の前で、無惨にもなぶり殺されてしまうイベントは多くのファンを凍りつかせました。
幼い主人公は心の傷を癒やす間もなく、その後、約10年もの間、ラインハットの王子・ヘンリーとともに奴隷として酷使され続ける青春時代を送ることになります。
奴隷生活から逃げ出したあとも、幼い頃に住んでいた故郷でもある村「サンタローズ」は、パパスがヘンリー王子をさらったと濡れ衣を着せられ、滅ぼされていました。さらに、魔物の脅威に脅かされているカボチ村を救ったにもかかわらず、キラーパンサーとグルであったと追い出されます……。
散々な目にあったあと、訪れるのが「結婚」イベントです。
パートナーと結ばれたのち、主人公は妻との間に双子を授かるのですが……その幸せも長く続きません。 またもや魔物の手により今度は「石像」として、長い時間を無為に過ごす運命が主人公を待ち受けているのです。
競売に出され、屋敷の庭に放置されること約8年。「ストロスの杖」を用い、石化を解いてくれたのは成長した自分の子供たち。幼少期に両親と別れ、自身で子供の成長を見守ることのできなかった彼の心の傷は、想像を絶するモノがあるでしょう。
また、不運を際立たせる背景には、彼が「ドラクエ」の主人公でありながら「伝説の勇者」でないことにも理由がありそうです。
「伝説の勇者」でこそないものの、紛れもなく「勇者」の素質を持っている
「ドラクエ」シリーズは「伝説の勇者」が「魔王」を倒す恒例があり、「勇者」は決まって主人公でした。
親子3代にわたって過酷な運命に抗う、壮大なストーリーに評価を集める『ドラクエV』の主人公は、シリーズで初めて、主人公でありながら直接的に「伝説の勇者」ではないキャラクターとして登場するのです。
サブタイトルに「天空の花嫁」とある通り、「結婚」イベントで伴侶となる妻と主人公との間に生まれた双子の長男こそが「伝説の勇者(天空の勇者)」。物語の元凶、「魔王ミルドラース」を倒す力を持っているのは、波乱万丈な運命に翻弄された主人公ではなく、自分の子供であることが物語のなかで発覚するのです。
しかし、2017年にPlayStation 4、ニンテンドー3DS用ソフトとして発売された『ドラゴンクエストXI 過ぎ去りし時を求めて』に登場する人魚の女王「セレン」の言葉を借りるなら「勇者とは、最後まで決して諦めない者のこと」。
プレイヤーに感情移入させることを目的として「ドラクエ」シリーズの主人公は原則喋ることがありませんが、『ドラクエV』では大人になった主人公が子供の頃の自分に対し、「坊や どんなにツライことがあっても 負けちゃダメだよ。」と語りかけるシーンが存在します。
「伝説の勇者」でこそないものの、過酷な運命に打ち勝つ『ドラクエV』の主人公は、紛れもなく「勇者」の素質を持っていると言って間違いないでしょう。
(ふみくん)