『モルカー』ヒットの背景に「長いアニメに耐えられない人が増えている説」は本当か?
ショートアニメ『モルカー』人気が止まりません。トコトコと歩き回ったり、ガトリングガンをぶっ放したりする姿は悶絶必至の可愛さ&面白さです。そんな『モルカー』の人気が高まるにつれ、長尺アニメ離れが懸念されているようですが……果たしてそんなことがあるのでしょうか?
「長いアニメを観られない」という話はどこから…?
今、日本じゅうを「癒し」の渦に巻き込んでいる話題のアニメ『PUI PUI モルカー』(以下、モルカー)は、2021年1月5日よりテレビ東京系「きんだーてれび」にて放送されるや、SNSを中心に一挙に拡散され、見逃し配信は200万回以上再生されるほどの人気作品となっています。羊毛フェルトで作られたモルカーたちがぷいぷい鳴きながらトコトコ一生懸命歩く(走る?)姿に、心をわしづかみにされた人も多いはず。長らくハムスターの元にあったげっ歯類の覇権を奪う勢いです。
その人気は海を超え、台湾でも“週32回”放送されるなど、社会現象まで巻き起こしています。コロナ禍において『モルカー』が一服の清涼剤となっていることは間違いありません。
そんな『モルカー』人気を支えている要因のひとつに、1話2分40秒という尺の短さが挙げられます。また1話完結の形をとっていることで、最近知った人でも難なく入り込める間口の広さも、ブームの拡大に一役買っているといえるでしょう。
一方、SNSでは「モルカーのヒットしたのは長いアニメを観れなくなった人が増えたから」と、一歩踏み込んだ指摘が見られるようになりました。ここでいう「長いアニメ」とは『モルカー』との比較であり、30分枠のアニメも「長い」作品に含まれています。
果たして私たちは、「長いアニメ」を観る力が衰えてきているのでしょうか。
答えは「NO」です。確かに、SNSでは上記の指摘の通り「最近、アニメ観る気力ないからモルカーは助かる……」などの声もあがっています。とはいえ、昨今の『鬼滅の刃』ブームを見れば分かる通り、「長いアニメを観られなくなった人が増えた」なんてことはありません。「長いアニメを観られなくなった人が増えた」ということ自体は誤謬といえますが、そのような感想を抱いてしまう理由については説明できるかもしれません。
たびたび起こる「長尺」「短尺」の揺れ動き
もともと高い評価を受けていたアニメ『鬼滅の刃』が全世帯的な人気を獲得した背景に「ステイホーム期間」が挙げられていることは周知の通りです。結果として『鬼滅の刃』は普段よりアニメ作品に触れていなかった層までも取り込んだ社会現象となりました。こうした『鬼滅の刃』のヒットを受けて、“ポスト『鬼滅の刃』”という触れ込みで他の作品がメディアで取り上げられ、『鬼滅の刃』でアニメ作品に触れたライト層にも多くの「面白そうなアニメ」の情報が届くようになり、やがてコンテンツの海に溺れることとなります。
そんな時に登場したのが、2分40秒という短尺の『モルカー』でした。それゆえに“比較”が発生し、「続き物の長いアニメを観る気力がない」という声が顕在化した結果、「長いアニメを観れない人が増えた」という誤診が広がりやすくなったと考えることもできそうです。こうした誤謬は、短尺アニメが人気を獲得するたびに発生しますし、「長尺」と「短尺」の揺れ動きはどのジャンルにおいても(例えばバラエティ番組、音楽業界など)においてもたびたび生じています。
では『モルカー』は、そのような時機を見極めたマーケティングから製作されたものだったのでしょうか? これもまた違います。『モルカー』は当初、短編映画としての公開を予定して製作されたものだったのです。それをプロデューサーの判断で現在の地上波放送に変更したため、2分40秒という時間になった……という経緯があります。
『鬼滅の刃』の第2期が決定し、すでにSNS上では放送を待ち焦がれる声であふれています。一方、『モルカー』の人気もますます広がっていくことでしょう。「長尺」と「短尺」はお互いのカウンターではなく、同居できるもの。時間の許す限り、どちらも楽しみたいものです。
(片野)
(C)見里朝希JGH・シンエイ動画/モルカーズ