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【漫画】髪をバッサリ もっと切りたいのに…美容師「男の子みたい」思い悩んだ体験

数年前、アメリカに住んでいたHさんは、ベリーベリーショートに憧れて髪をばっさり切ることを決意。しかしサロンで「これ以上短くすると男の子みたいになっちゃうから」と言われ……。「自分らしさ」について考えさせられるマンガに大きな反響が集まっています。

“女らしさ”の押し付けに「自分らしさを大事にしたい」

見本写真のように短く切ってくれない…(Hさん提供)
見本写真のように短く切ってくれない…(Hさん提供)

 数年前、アメリカに住んでいたHさん(@nokonokogiri)は、坊主やベリーベリーショートに憧れて髪をばっさり切ることを決意。ヘアサロンで見本の写真を見せ「こんな感じに」とお願いしましたが、美容師はある程度ショートになると「これ以上短くすると男の子みたいになっちゃうから」と切ってくれず……。

 Hさんがこの時のことをマンガに描き、『髪切ってかるく人生変わった話』としてTwitterで公開しました。「自分らしさ」について考えさせられるエピソードに、読者からは「すごく分かる」「同じ経験ある」「私もバッサリいきました」「自分のアイデンティティを大事にしましょう」など、共感の声が多く寄せられました。

 作者のHさんに、お話を聞きました。

ーーHさんがマンガを描き始めたきっかけを教えて下さい。

 物心ついたときから絵を描くのが大好きだったので、マンガはその延長線上で時々描いてました。なのできっかけとかは特にないです。

ーー『髪切ってかるく人生変わった話』はHさんが数年前、アメリカに住んでいた時のエピソードですが、今回マンガに描いて公開しようと思ったきっかけを教えて下さい。

 この出来事自体は前々からマンガにしたいと思っていたのですが、当時は「なぜ自分はこんなにも苦しいと感じてきたのか、なぜあの美容師さんに救われたと感じたのか」を今ほどうまく周囲に説明できていませんでした。ジェンダーなどに対する知識も圧倒的に足りなかったですし、一連の出来事に対する「自分の内から湧き出るさまざまな感情」みたいなものを順序立てて他者に説明できるだけの術(言葉)を持っていなかったんです。

 あの出来事から数年たって、何度も当時のことを反すうして、自分が感じていることの言語化の練習をたくさんしていくなかで、やっと「ああ、私はこういうことが言いたかったんだ」とゴールみたいなものが見えて。その時に、髪を切った当時のいろいろな出来事がバーッとひとつにつながったんです。

 つながってしまうとどうしてもそれを「何かの形」にしてシェアしたくなってしまうので、その手段のひとつとしてマンガを選びました。元々絵とかマンガを描くタイプのオタクだったので……。そんななかでコロナの影響もあって在宅時間が増えて、絵を描ける時間が一気に増えました。「まとまったものを描くなら今しかない!」と思って、制作にとりかかったのが2021年1月でした。

他のサロンでは「男の子みたいになる」と言われてしまい…(Hさん提供)
他のサロンでは「男の子みたいになる」と言われてしまい…(Hさん提供)

ーー中盤の「この円から出たらダメ」という、見えない境界線によって「自分らしさ」を尊重してもらえないつらさが表現されたシーンが印象的です。表現に込めた思いなどをお聞かせいただけますか?

 当初、ネームの段階では私を“女らしさ”の円のなかに引き戻す存在を“ナゾの手”ではなく人物(人間)として描いていました。円に引き込む存在として女性たちを描き、円に押し込める存在として私の家族や、最初の頃に行ったヘアサロンの美容師さんたちなど、今まで私に“女らしさ”を押し付けてきた人たちを思い出して描こうとしました。

 でもそれでネームができた直後に「この描き方は違うし、ダメだ」って強く感じて。自分が完全にコントロールできるマンガ(しかも”実録”マンガ)という媒体で特定の属性(性別・年齢・役割や立場・職業)の人たちを悪者っぽく描くのは、新たなステレオタイプや誤解につながる、と気付いたんです。あと、実際の「抑圧」って常にはっきり誰かや何かの形をしているわけではないので……。

 自分が生まれ育った日本で無意識に内面化していた「女性ならこうするべき」という偏った価値観や、周囲から押し付けられる“女らしさ”、メディアなどによる偏ったジェンダー観……その全てが内包できるのってなんだろう、と考えた結果、あの“女らしさ”の円と、天から伸びる“ナゾの手”に落ち着きました。私を“女らしさ”の円に押し込めようとしてきた人たちも、今の社会ではおそらく別の“らしさ”の円のなかに押し込められようとしている瞬間はたくさんあるはずだと、そういう思いが込められています。

 ただ、あの描写に完全に納得がいっているわけではないです。妥協というか、どこか“逃げ”を感じさせる描写だな、とあとで反省しました。今後もっと分かりやすくて適切な描写が思いつければいいな! と思います。

ーーたくさんの感想が寄せられています。特に印象に残った読者の声について、教えて下さい。

「自分も同じ経験をした」という共感の声がたくさん届いたのですが、そのなかでも「だから自分でバリカンでそった」といった声が複数の方から届いて、実はかなり複雑な気持ちになりました。「すごいな、行動力があって強い人たちだなあ」という感心と、「自分で自分を解放する行為だな~、一度私もやってみたい!」という憧れと、「この人たちだって一度は他人を信じて”切ってください”と任せたはずなんだよな」という思いと……。

 本来散髪って自分でやるのが難しいことで、だから皆さんヘアサロンなどに行くと思うんですが、本来そうやってお金を払ってプロに安心して任せられるはずのことを、特定の条件下で拒否されてしまう人たちがいる。それって全然フェアじゃないよな、って思って。でも楽しんでやられている方々や、その状況をポジティブに捉えて「好きにやるぞー!」ってしてる人たちはとても素敵だし、それを否定する気持ちは全くないです。むしろ「すごく素敵なことのはずなのに、なんでこんなにしっくりこないんだ!?」といろいろ考えてしまって。そんな理由でこの類のコメントが最終的に一番印象に残りました。

ーー今回のエピソードについて、マンガには描き切れなかったことはありますか?

 描き切れなかったことはたくさんあります。マンガのなかでは割とあっさり思い立ってすぐ切りに行ったように見えるかもしれませんが、実際は結構悩んだ後に、周囲(特に父)のやんわりとした反対を押し切ってヘアサロンにいきました。加えて当時の私は自分の性自認についてものすご~く悩んでいたので、髪型だけでなく化粧や服装についても大分苦しんでいました。ただそれを全て描いた上でメッセージがブレずに伝わるマンガを描ける自信がなかったので、今回は髪の毛の話だけに絞りました。

ーー今後、Twitterで発表される作品については、どのように活動していきたいとお考えでしょうか?

 マンガに限らず絵や文章、他の方法などでより伝わるやり方があれば私はそちらを選ぶと思います。その時に適切な言葉やそれを表現できる技術・知識を身につけていけたらと思います。

(マグミクス編集部)

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