『魔法少女まどか☆マギカ』美樹さやかが魔女になった日「あたしって、ほんとバカ」
周囲のすべてがさやかを追い詰めた
さらには友人の志筑仁美が恭介に告白して付き合い始め、魔法少女としての生き方に疲れ果てたさやかは、乗り込んだ電車の中で最悪の出会いを果たしてしまいます。
さやかの目の前でふたりのホストが交わした、女性から徹底的に金を搾り取る内容の会話を聞いてしまったさやかは心底絶望し、戦う気力を完全に失ってしまうのです。この会話は脚本を担当した虚淵玄氏が直接耳にした会話を使用した、実に生々しいものとなっています。
しかもホストの声を担当したのは三木眞一郎氏と飛田展男氏と言うベテラン声優のふたりなのです。色っぽく、淡白で、それでいて残酷な内容の会話を嬉々として繰り広げられるこのシーンは、思春期の少女の心にとって致命的な打撃を与えるだろうと思わせる説得力のあるものでした。
そうして失望に次ぐ失望を重ねたさやかのソウルジェムは濁りきり、人としての魂が失われようとする寸前に、さやかを心配して探し回っていた杏子が駆けつけます。しかし既に手遅れとなっており、さやかは絶望の涙を流しながら「あたしって、ほんとバカ」と言い残し、人魚の魔女へと変貌を遂げてしまいます。
今まで魔法少女たちが命がけで倒していた魔女の正体は、魔法少女たちのなれの果てであることが明かされた瞬間でした。
そして戦いは、さやかを救おうとする杏子とまどかVS人魚の魔女という救いのない展開を迎えます。戦いの行く末に待つのがさらなる悲劇だということを当時の視聴者はうすうす感じながらも、掲示板での討論や考察を重ねながら長い長い1週間をすごしました。
翌週に放送された第9話「そんなの、あたしが許さない」は視聴者の予想や期待を超える凄惨な回となったことは、言うまでもありません。まどかをはじめとするキャラクターたちの、そして視聴者の叫びは、さらに悲嘆の度合いが高まる結果となったのです。
(早川清一朗)