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『この世界』の片渕監督の隠れた名作、『マイマイ新子』が引き寄せた大切な縁

まるでタイムスリップしたかのような感覚

『マイマイ新子と千年の魔法』が引き寄せた縁は、2016年に公開され大ヒットした『この世界の片隅に』結実した。 (C)こうの史代・双葉社/「この世界の片隅に」製作委員会
『マイマイ新子と千年の魔法』が引き寄せた縁は、2016年に公開され大ヒットした『この世界の片隅に』結実した。 (C)こうの史代・双葉社/「この世界の片隅に」製作委員会

 親友となった新子と貴伊子は、秘密を共有するようになります。新子は1000年前にも、自分たちと同じような少女がいたことを貴伊子に伝えます。

「友達になりたい」。新子と貴伊子の純粋な想いと、1000年前の時代を生きていた少女・なぎこ(CV:森迫永依)の孤独な想いが、時空を越えて求め合い、不思議な体験を招くことになるのです。

 本作を観ていると、昭和30年代のノスタルジックな世界を体験するだけでなく、さらに1000年前の平安時代にまでタイムスリップしたかのような感覚が味わえます。

 昭和世代には懐かしいグリコのおまけの数々に、ポン菓子の製造に加え、平安時代の国司の館でひとり遊びするなぎこの様子などが時代考証に基づきディテールたっぷりに再現されています。原爆が投下される前の広島市を微細に再現した『この世界』と同様に、繰り返し観ることで細部を確認する楽しみが本作にはあります。

「千年の魔法」がもたらした出会い

 少女時代を満喫していた新子たちは、やがて大人の世界に触れ、イノセントな時代が終わりを告げるところで物語は幕を閉じます。劇場アニメとしては非常に完成度が高かった本作ですが、片渕監督いわく「アニメ制作で予算を使い果たし、宣伝費がまったく残っていなかった」ために、劇場公開はひっそりとしたままで打ち切られてしまいました。

 でも、片渕監督たちが『マイマイ新子』のアニメ化に全力を注いだことは、大きなリターンとなって還ってきたのです。片渕監督がロケハン協力してくれた防府市で映画のPRも兼ねてトークイベントを開いたところ、トークイベントの司会者兼企画者が持っていたクリアファイルに片渕監督の目が留まりました。

 そのクリアファイルには、マンガ家・こうの史代さんを有名にした『夕凪の街 桜の国』のイラストが入っていました。このクリアファイルが起点となり、片渕監督は山口県のお隣・広島県を舞台にしたマンガ『この世界の片隅に』と出会うことになったのです。

 もうひとつ、出会いがありました。興行的にはさんざんだった『マイマイ新子と千年の魔法』ですが、今敏監督の『千年女優』(2002年)などを手掛けた映画プロデューサーの真木太郎氏はそのクオリティの高さに惚れ込み、『この世界』の製作を引き受けることになったのです。「千年の魔法」が片渕監督にいろんな出会いをもたらしたのです。

 ひたむきな想いが時を越え、場所を越え、人から人へと広がり、また新しい名作が生まれることになったのです。片渕監督にとっても、『この世界』のファンにとっても、『マイマイ新子と千年の魔法』はかけがえのない作品となっています。

(長野辰次)

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