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「超サイヤ人が金髪の理由」描き手の“事情”が生んだマンガあるある

「マンガあるある」のなかには、ストーリー上の要請ではなく描き手の事情から生まれたものもたくさんあるようです。本稿では時間に追われる漫画家さんのライフハックによって定着したマンガでよくある表現をご紹介します。

「マンガあるある」は描く側のライフハックから生まれたものだった!

著:鳥山明『DRAGON BALL』 電子版第27巻(集英社)
著:鳥山明『DRAGON BALL』 電子版第27巻(集英社)

 週刊連載を抱える漫画家さんからすれば、執筆作業の効率化は重要な課題です。そのなかで生まれたライフハック(仕事術)が今ではマンガ表現の定番になっているなんてこともあるようです。そこで、実は効率よく筆を進めるためのライフハックだったおなじみの演出・表現を紹介します。

●超サイヤ人が金髪なのは…わざわざ黒く塗る手間が省けるから!

 演出かと思えばライフハックだったものとして一番有名なものはこちらのエピソードでしょう。鳥山明先生による『ドラゴンボール』の「超サイヤ人が金髪だった理由」です。孫悟空が超サイヤ人に変身すると黒髪から逆立った金髪に変わります。戦闘種族としての能力がついに覚醒した激アツの演出なのですが、実はこれ、多忙を極めていた鳥山先生が黒塗りの手間を省くためのアイデアでもあったのです。確かにカラーで金髪に描けば誌面が白でも金髪に見えます。世界中を熱狂させたあの変身シーンが「作業効率化を図るためだったことにも驚きですが、それを違和感なくデザインとして成立させた鳥山先生の神業ぶりにも驚愕です。

 ちなみに『ジャングル大帝』(手塚治虫)の主人公レオは白いライオンですが、これは手塚先生が連載以前に描いた動物の絵本でライオン黄色く塗ったつもりが、光の加減で白になっていたとう経験から着想を得たそうです。巨匠漫画家と「白」をめぐるエピソードはまだまだ眠っていそうです。

●主人公がよく教室の席に座っている理由も「描き手」ならではの事情が

 マンガで主人公が座っている位置の定番といえば、教室の隅っこの窓際の席です。授業(だいたい数学か古典)も聞かず、頬杖をついて窓の外を眺める主人公の姿、どの作品とも言わずとも難なく想像できるのではないでしょうか。

 一体、なぜ彼らはあのポジションに配置されるのでしょう。もちろん上記のようにどこか俗世間に対して斜に構えたキャラクター像の演出という意味もあるでしょうが、最大の理由は「教室を描くのが面倒だから」だといいます。時間との格闘を強いられる漫画家さんにとって背景をどれだけ自然に省略できるかは大きな課題。真ん中の席に主人公を配置しようものなら、大量の机、椅子、筆記用具、男女生徒を背景に描き込まねばなりません。なお「学校の椅子」というのも描き手からすればとっても厄介な存在らしく、背もたれの微妙な湾曲、足部分と座面を支えるパイプの描き分けなどが必要だとか。「神は細部に宿る」などと簡単に素人が言ってはいけないのがよく分かります。

●「描くのが面倒」ならギャグにするのもまたプロフェッショナル!

 漫画家さんの中には「大勢の観客」を見ると真っ先に「うわ、描くの大変そう」と思う、特殊な職業病を抱えた人が少なからずいるそうです。素人には想像もつかないプロの領域です。(あと心配です)。確かに単に人数だけで言えば前述の教室の比ではありません。そんな面倒な観客たちをできる限り簡単に描いてしまおうと振り切ったのが『みどりのマキバオー』『モンモンモン』などの作品で知られるつの丸先生と言えるでしょう。つの丸作品に登場するモブはみんな全裸にたらこ唇の姿で統一されています。そして、この簡略化しきったモブたちこそが「つの丸作品」のアイコンとなっているのだから偉大です。

 また漫☆画太郎先生のコピペもある種の「開き直り」をギャグに昇華させています。同じ絵をコピペして使い回すことは決して少なくないように思われますが、漫☆画太郎作品ではこの使い回しがギャグの中枢を担っています。ギャグマンガの巨匠ならではといえる仕事術です。

 今回紹介したライフハック的演出の誕生の背景には「どこを省略して、どこに時間を費やすか」というマンガ家さんそれぞれのプロフェッショナルが反映された結果でもあります。これを知った以上、もう教室のシーンで背景を読み飛ばすことなんてできなそうです。

(片野)

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