季節の変わり目、愛猫の毛がよく抜ける よく観察したら…見えた世界
漫画家の迷子さんによる描き下ろしエッセイ『妄想猫観察』。かわいい愛猫は、毛もかわいい……季節の変わり目は毛がよく抜け、飼い主の妄想がはかどります。
かわいい猫の、毛もかわいい
猫をブラッシングする。そんな必要も無いほどきちんと自ら毛繕いをして毛並みを整える猫であるが、この人間は猫のブラッシングをしたいのだ。諦めていただこう。ちょうど季節の変わり目で、よく毛の抜ける時期だということもあるし。仕方ない仕方ない。
猫の毛をまじまじ見ると、人間の体毛とは根本的な違いがある。一つの毛根から5本も6本も毛が生えているのだ。とても細い柔らかなぱやぱやした毛がファッと広がり生えている。柳の種に似ている。たまに風に乗ってふわふわ目の前を通り過ぎる、ケサランパサランっぽいあれだ。
ふと思い立ち、顕微鏡を引っ張り出し、猫の毛をプレパラートに乗せてみた。可愛い生き物の毛は拡大しても可愛かろう、見たい、という至極当然の発想である。
果たしてそこには、小さい猫っぽい生物の世界が広がっていた。小さいかれらは一つ一つの細胞を家として生活しており、毛根の流れに沿って存在している。もたもたと移動し、分裂したり伸びたり結合したり縮んだりしている。面白いことに、彼らはどうやら母船から切り離された事に気が付いているらしい。風呂敷を背負ったり旅行鞄をもったり、引っ越しの準備をしている。準備のできた個体から、こちらに手を振ったり小さな帽子を振ったりして挨拶してくれる。そうして視界上からのろのろと消えていくのだ。幾千の彼らと別れの挨拶を交わし、気が付けば顕微鏡には拡大された毛のみが映っている。
一抹の寂しさ。猫はのんびりと毛繕いをしている。
(迷子)