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「バルタン星人は好きじゃない」?…怪獣の生みの親が語った、本当の会心作とは

クリエイターの作品で、世間でウケたものと作った本人が気に入っているものが一致しない……ということがしばしば起こります。誰もが知るバルタン星人ですが、生みの親である成田亨氏はさほど気に入っていなかったそうです。では、彼にとっての「会心の作」とは何だったのか……世界に「怪獣」のイメージをもたらした天才の哲学を覗きます。

怪獣がいない世界で怪獣を生み出した天才

初代『ウルトラマン』をはじめ、数々のシリーズ作に登場して人気を集めているバルタン星人。画像は「S.H.フィギュアーツ ウルトラマン バルタン星人」(BANDAI SPIRITS)
初代『ウルトラマン』をはじめ、数々のシリーズ作に登場して人気を集めているバルタン星人。画像は「S.H.フィギュアーツ ウルトラマン バルタン星人」(BANDAI SPIRITS)

 ウルトラ怪獣のデザインはなぜこうも芸術的なのでしょう。この問いに対する答えは意外にもシンプルで、「芸術家が作ったから」。これに尽きるかもしれません。

 実際、初期ウルトラ怪獣デザインの礎を築いた方は紛れもなく「芸術家」です。その名は成田亨氏(以下、敬称略)。1929年生まれ、青森県出身の彫刻家であり、デザイナーです。ゴモラ、レッドキング、カネゴン、メトロン星人など、数多くの怪獣・宇宙人を世に送り出しました。とりわけ世界的に有名なのは「バルタン星人」でしょう。一度観たら忘れられないビジュアルインパクトで、どこか艶やかさすら感じます。

 ところが、生みの親である成田亨は後年、自著のなかで次のようにはっきりと語ります。

“「バルタン星人」のデザインはあまり気に入っていないんです。”

 一体、どういうことでしょうか。その真意を紐解くためにも、芸術家・成田亨の来歴を簡単におさらいします。

●注目の彫刻家と『ゴジラ』美術スタッフの二足のわらじ

 1950年。成田青年は画家を志し青森から武蔵野美術学校(現在の武蔵野美術大学)に進学。ジャコメッティら気鋭の彫刻家たちの作品に触れるうち、自らも立体芸術の世界へ。美術学校卒業後、彫刻家としての活動を開始するなか、後輩の富樫美津雄に誘われ『ゴジラ』の美術スタッフの“アルバイト”を開始します。これが成田亨と「特撮」との出会いでした。

 美術スタッフとして『ゴジラ』映画に携わりつつも彫刻製作の手は休めず、1955年には新制作協会が主催する第19回新制作展に入選。さらに1962年には新制作展新作家賞を受賞。まさに注目の若手彫刻家だったのです。

 そんななか、「テレビ映画を作るから手伝ってくれ」と円谷英二氏に直接誘われます。成田は「自分が全ての怪獣デザインを担当する」ことを条件にOKを出しました。これこそが、ウルトラシリーズ第1作『ウルトラQ』だったのです。

●怪獣がいない世界で怪獣を生み出した

 あくまでも本業は彫刻家としつつも、円谷プロダクションにおいて「怪獣」デザインの仕事を始めることとなります。とはいえ当時は「怪獣」という概念そのもののコンセプトから生み出さないといけませんでした。連日、図書館や古本屋に通いつめ古代壁画からスフィンクス、中国妖怪といった古今東西の「怪獣」と思しきものを徹底的に調べあげ、今日の「怪獣」のイメージを固めていきます。そのなかで生まれたのが、有名な怪獣三原則です。(※筆者要約)

 (1)既存の動物を巨大化させるだけではいけない
 (2)頭が二つあるなど「奇形」「化け物」であってはならない
 (3)体が破壊され流血しているようなものではいけない

 (1)でやんわり(著書でははっきり)ゴジラやモスラへの不満を呈している気がしますが、それだけ芸術家としての独創性を以って「怪獣」なる未知の生き物を生み出そうとしていたのです。

●人気者を生んだのは「現場感覚」

 こうして成田亨デザインの怪獣が『ウルトラQ』を通じて世に送り出されるや、たちまち子供たちは夢中になり、続く『ウルトラマン』でその「怪獣」熱は一気に最高潮に達します。

 なかでも人気を獲得したのがバルタン星人でした。ここで話は戻りますが、成田亨自身はこのバルタン星人のデザインをあまり気に入っていません。『ウルトラQ』に登場したセミ人間を下地にあれこれ監督に注文されて仕方なく作ったものであり、成田自身の独創性が十分反映されていない……というのが本音だったそうです。

●成田亨の「最高傑作」は…夜に駆ける八頭身!

初期ウルトラマンシリーズの怪獣造形で中心的役割を果たした高山良策氏が晩年に遺した「ケムール人」の怪獣人形(画像:円谷プロダクション)
初期ウルトラマンシリーズの怪獣造形で中心的役割を果たした高山良策氏が晩年に遺した「ケムール人」の怪獣人形(画像:円谷プロダクション)

 ではそんな独自の哲学を生み出した成田亨が自身の「会心の作」とはなんだったのでしょう。それは『ウルトラQ』に登場したケムール人です。美術学校時代に修得した「シンクロナイゼーション」というエジプト壁画に見られる技法を立体物に取り入れたといいます。

 非対称の眼球を乗せた頭部に八頭身のすらりとした体。美術知識がなくとも一発で「美しい」と言わざるを得ない、奇(あや)しい魅力をたたえています。なお、スーツアクターはのちのウルトラマンを演じる古谷敏さんでした。

 ここまで、成田亨がいかにして「芸術」と「特撮」の架け橋となったかを振り返ってきましたが、もし成田亨が自分の認めた“美”以外を一切造らないタイプの芸術家だったら、バルタン星人はこの世に生まれていません。現場感覚を持ち合わせた天才……それこそが成田亨の真髄なのではないでしょうか。

※主要参考文献:成田亨『特撮と怪獣: わが造形美術』(フィルムアート社)

(片野)

【画像】モノクロ映像でも強烈! 成田氏が手掛けた「ケムール人」と「カネゴン」(7枚)

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