大人も楽しめる『ウルトラセブン』、そもそも子供向けだった? 背景に「視聴率と制作費」
『ウルトラセブン』といえば「大人も楽しめる特撮作品」というイメージがないでしょうか? 実際、子供向けとは思えない社会的なメッセージを含んだエピソードが多いのも事実。とても子供向けとは思えない……いや、もしかして本当に子供向けじゃなかったのでは? そんな疑問を検証していきます。
転機となったプロデューサーの交代

NHKでリマスター版の放送が開始され、令和になってもたびたび話題に取り上げられている『ウルトラセブン』ですが、同作がマスメディアで紹介される際に何かと強調されがちなのが、「大人も楽しめる」という点です。
これは「子供向けであることはもちろんのこと」という前提があって初めて成り立つ言い方ではあります。今さらではありますが、『ウルトラセブン』は間違いなく子供のみならず大人も楽しめる、ウルトラシリーズの最高傑作のひとつです。とはいえ(リアルタイムの熱狂を知らない世代からすると)あまりにも「大人も楽しめる」点が強調されるので、思わず
「そもそも本当に子供向けだったの?」
なんて素朴な疑問が浮かんでしまいます。ということで、今回は製作陣や演者の証言、資料から『ウルトラセブン』が本当に子供向けだったのかを、非リアルタイム世代の視点で見ていきたいと思います。
●『ウルトラマン』との差別化を図るため「宇宙」を舞台に
まず企画段階から見ていきましょう。『ウルトラマン』放映中の1966年10月、世間が怪獣ブームに湧くなか“一歩でも次の段階に進みたい”として「宇宙」を舞台にした特撮ドラマの企画書が円谷プロからTBSヘ提出されました。
この時のタイトルは『ウルトラ警備隊』。内容も宇宙におけるさまざまなトラブルをウルトラ警備隊が解決していくというもので、まだヒーローが登場する予定はありませんでした。やがてこの企画は紆余曲折を経て『ウルトラセブン』へと帰着します。
この時、対象年齢をどこに設定していたかは定かではありませんが、少なくとも『ウルトラマン』よりさらに本格的なSFドラマを目指していたことは確かなようです。
●敏腕プロデューサーに交代し名作が量産、しかし視聴率は苦戦
放映開始当初こそ40%近くを記録した視聴率でしたが、その後は下降の一途をたどり、また内容に関しても“ドラマ部分が幼稚”といった実に厳しい意見が寄せられていたそうです。意外にもリアルタイムでの風当たりは強かったようです。
これに危機感を抱いたTBS側は急きょプロデューサーを交代。その意向でドラマ性を重視したシナリオに方向転換することとなります。このプロデューサー交代は対象年齢の引き上げを意味していると考えても問題ないかと思われます。
ところが、このテコ入れはむしろ逆効果となり、視聴率の回復にはつながりませんでした。また円谷プロは同時期にフジテレビで放映していた『マイティジャック』の不振で深刻な経営難に陥っており、肝心の特撮パートにかける費用にも限界がきていました。
結果として、特撮アクションを求めていた当時の多くの子供たちの支持を獲得できぬまま『ウルトラセブン』の視聴率は10%台まで下落してしまいます(とはいえ、今の基準で見れば十分な高視聴率です)。
●森次晃嗣さんも懸念していた「メッセージ性の高さ」
このドラマ性重視の『ウルトラセブン』製作に関しては、モロボシ・ダンを演じた森次晃嗣さんも当初から多少なりとも懸念していたようです。あるインタビューでは「この難しい内容が果たして子供たちに理解できるのだろうか、と思うことが度々ありました」と語っています。出演者からしても“子供には難しい内容”と感じていたようです。
●50年以上が経過……現在もファンの熱意は凄まじく
『ウルトラセブン』がドラマ性重視だったことは確かであり、純粋に“子供向けだった”とは言い切れないかもしれません。ここに今の『ウルトラセブン』の評価との乖離を感じます。
とはいえ、森次晃嗣さんは前出のインタビューで、視聴者に迎合せず最後まで信念を持って製作にあたっていたという旨も述べていらっしゃいます。高い作品性を維持した製作陣の信念。これがあったからこそ、当時は熱狂し得なかった元子供たち……つまり今の“大人”たちも楽しめる作品となっていると言えるのかもしれません。
『ウルトラセブン』を愛する大人たちの熱意は今なお凄まじく、先日、撮影で使われたアンヌ隊員のサイン入り隊員服が390万円で落札されています。
(片野)