『ゴジラvsコング』の「カギ」を握る芹沢蓮…破壊神になろうとした男の悲劇とは?
これまでのゴジラシリーズをリスペクトした設定

芹沢蓮は、巨大テクノロジー企業「エイペックス」の主任研究員となり、ゴジラを上回る巨大兵器を開発します。それがメカゴジラです。『ゴジラ対メカゴジラ』(1974年)で初登場して以来、ゴジラシリーズに実写版だけでこれまでに5度登場した、シルバーメタリックで超クールな巨大ロボット「メカゴジラ」が、ついにハリウッドデビューを果たすことになります。
前作『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』のラストシーンでネタ振りされていましたが、ゴジラに倒されたモンスター・ゼロことキングギドラの遺体を活用し、芹沢蓮はメカゴジラを遠隔操作します。『ゴジラvsメカゴジラ』(1993年)や『ゴジラ×メカゴジラ』(2002年)など、これまでのゴジラシリーズに対するアダム・ウィンガード監督らのリスペクトが感じられる設定となっています。
ゴジラ、コングだけでなく、メカゴジラまで現れたことで香港の市街地は大パニックに。物語の展開は予想できない方向へと転がっていきます。ゴジラ、コング、メカゴジラが一堂に会するクライマックスは、モンスターバース屈指の壮絶バトルとなります。
より明確になったメッセージ性
その昔、人類は「バベルの塔」と呼ばれる巨大な塔を建て、神が棲む天に近づこうとしました。しかし、バベルの塔は神の怒りに触れ、バラバラに崩壊してしまいます。文明を過信しがちな人類への教訓として、バベルの塔伝説は「旧約聖書」に記されています。
芹沢蓮はメカゴジラを開発することで、“破壊神”ゴジラに迫ります。蓮の上司にあたる「エイペックス」のCEO・ウォルターの無茶ぶりも問題ですが、蓮たちは科学の力を過信し、大きなトラブルを招いてしまいます。
芹沢猪四郎と蓮がどのような親子関係だったかは、本作では描かれていません。でも、蓮はメカゴジラを操ることで、父を奪ったゴジラと正面から向かい合ってみたかったのではないでしょうか。人気アニメ『新世紀エヴァンゲリオン』(テレビ東京系)の主人公・碇シンジが父・碇ゲンドウとエヴァを介してコミュニケーションすることを考えたように、蓮もメカゴジラを通して亡き父親ともっと対話したかったように感じられます。
心優しいコングが耳の不自由な少女・ジアと手話によって交流する感動的なシーンに加え、メカゴジラを登場させたことで『ゴジラvsコング』は明確なテーマが浮かび上がっています。
ゴジラやコングといった自然界が生み出した脅威よりも、人類自身による行き過ぎた文明、科学に対する盲信のほうが、もっと恐ろしいということです。『キングコング』(1933年)と『ゴジラ』(1954年)、それぞれのシリーズ第1作に刻まれていたメッセージ性を、『ゴジラvsコング』は蘇らせることにも成功しています。
ゴジラとコングの勝敗の行方だけでなく、白目をむく小栗旬さんの熱演ぶりにもぜひ注目してみてください。そして、願わくば芹沢蓮の出演パートの多いロングバージョンの『ゴジラvsコング』も観てみたいものです。
(長野辰次)
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