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映画『妖怪大戦争』で「大魔神」が復活。庶民の苦しみに呼応する最強魔神の中身は?

「大魔神」の中身は元プロ野球選手だった

第2作『大魔神怒る』デジタル・リマスター版DVD(KADOKAWA)
第2作『大魔神怒る』デジタル・リマスター版DVD(KADOKAWA)

 大魔神の恐ろしさは、あの鋭い眼光にあります。ウルトラマンのようなクールな特撮ヒーローと違い、変身後の大魔神は、兜(かぶと)から覗く緑色の顔の目の部分だけがリアルに人間のものでした。

 大魔神のスーツアクターを務めたのは、俳優の橋本力さんです。もともとは「大映」がオーナー会社だったプロ野球「大毎オリオンズ」の外野手でした。プロ野球から映画界に転身した橋本さんの「売り」は、アスリートとしての体力と目力の強さ。重い大魔神の鎧スーツを着て、大人でさえ震え上がる眼光を発することができた橋本さんの熱演があったからこそ、大魔神は忘れられない存在となったのです。

 その後も橋本さんは、ブルース・リー主演の人気アクション映画『ドラゴン怒りの鉄拳』(1972年)にラスボス役で出演するなど、個性派俳優としての足跡を残しました。自分を映画界に誘ってくれた「大映」の社長・永田雅一氏が1985年に亡くなった際に、俳優業から引退しています。昔ながらの律儀な性格だったようです。

 大魔神の設定身長は4.5メートル(人間の2.5倍)。ゴジラやウルトラマンに比べると、あまり大きくありません。大魔神が叩き壊す城門や櫓(やぐら)などのミニチュアセットが精巧に作れるよう、逆算してこのサイズになったそうです。それゆえ、悪い領主が暮らすお城のミニチュアセットは、崩れ落ちる瓦の一枚一枚まですべて2.5分の1サイズの手作り。大魔神の暴れっぷりが、迫力たっぷりに伝わってきます。3部作のクライマックスは、どれも特撮映画史に残る名シーンです。

 夏休みになると、かつて地方のテレビ局では『大魔神』3部作がたびたびローカル枠で放送されました。シリーズ第2作『大魔神怒る』では、女優の藤村志保さんが磔(はりつけ)にされ、火あぶり寸前となります。ギリギリのところで大魔神が現れるのですが、子供心に非常にドキドキしながら観ていたことを覚えています。

人気作家を起用した新作も企画されていたが…

 いかめしい大魔神の造形は、『ウルトラマン』の怪獣や宇宙人たちの造形も手掛けた高山良策氏によるもの。1966年の高山氏は、『ウルトラマン』と京都で撮影された『大魔神』との掛け持ちで大忙しだったそうです。重厚な音楽は、『ゴジラ』(1954年)でもおなじみの伊福部昭氏。スタッフも非常に豪華です。

 脚本家の吉田哲郎氏は、『にっぽん脚本家クロニクル』(ワールド・マガジン社)のなかで、『大魔神』3部作のシナリオを次のように振り返っています。

「出来るか出来ないかなんて心配せず、思い通りイメージそのままに書いて下さい。それらを全部画(え)にするのが俺たちだから……」。そんな言葉でスタッフから励まされたそうです。当時の映画人たちの太っ腹さが伝わってくる逸話です。

 予算を気にせずに完成した『大魔神』は、いま観ても素晴らしい特撮時代劇の傑作です。もちろんヒットしたからシリーズ化されたのですが、あまりにも制作費がかかりすぎたようです。また大映の経営が傾き、1971年には倒産してしまったため、3作を残しただけで終わってしまいました。その後、作家の筒井康隆氏や漫画家の大友克洋氏を起用した新作が企画されましたが、制作には至っていません。

 私利私欲に走り、庶民の声に耳を傾けない権力者たちを懲らしめる大魔神。映画のなかだけでなく、現実世界にも現われればいいのに……。そう思う人は、少なくないのではないでしょうか。

(長野辰次)

【画像】幻となった『大魔神』リメイク脚本、現代が舞台のTVドラマも(5枚)

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