『エースをねらえ!』お蝶夫人の名言4選。孤高のテニス女王が愛を受け入れるまで…
日本がテニスで初のメダルを獲得して約100年。東京2020オリンピックでも熱戦が続いています。そして70年代のテニスブームを牽引したのが名作マンガ『エースをねらえ!』。登場したお蝶夫人はテニスが上手く、美しくて聡明、家は裕福、縦ロールをなびかせたお嬢様。彼女の女王ならではの孤独から、愛を受け入れるまでの名言をご紹介。
美しく気高い、お蝶夫人が感じる孤独とは…?
各種競技で熱戦が続く東京2020オリンピック。メダルラッシュの日本勢ですが、これまでのオリンピックで、日本にもたらされた初のメダルは何の競技だったかご存知ですか?
答えは、テニス!
1920年、ベルギーのアントワープ大会で、熊谷一弥さんが銀メダルを獲得しました。熊谷さんは柏尾誠一郎さんとのダブルスでも銀メダルを獲得しています。
その後、1970年代に起こったテニスブームの一翼を担ったのが、名作マンガ『エースをねらえ!』です。
『エースをねらえ!』は、テニスを始めたばかりのごく普通の高校生・岡ひろみが、彼女の才能を見いだした宗方仁コーチの厳しい特訓に耐え、成長していく名作マンガです。1973年に連載が始まり、アニメ化、ドラマ化もされました。
ひろみがテニスを始めたきっかけは、超高校級プレイヤー・竜崎麗香のプレイに憧れたからです。竜崎麗香は、テニスが上手いだけでなく、美しく聡明で、家は裕福で、ゆれる縦ロールがトレードマークのお嬢様です。
「あざやかな 蝶の舞いにもにた 華麗な そのプレイ」「蝶のように美しく 蝶のように軽々と」というプレイスタイルから、彼女は「お蝶夫人」と呼ばれていました。
お蝶夫人は、素直なひろみを妹のようにかわいがっていましたが、コーチの独断でひろみが大会の選手に選ばれると、選手を辞退するように勧めたり、絶縁宣言にも等しい厳しい言葉を投げかけたりして、ひろみを追い詰めます。
そして、コーチに特訓を受けるひろみにイラついたり、好意を抱いている男子テニス部員の藤堂貴之がひろみと仲良くするのを見て嫉妬したりもしましたが、けっしてひろみを心から憎むことはできないのでした。
そして、コーチの指導のもとメキメキと力をつけていくひろみを見て、お蝶夫人は、憧れの先輩としてだけでなく、越えるべき壁として、ひろみの前に立ちはだかることを決意します。
「おってきなさい ひろみ あたくしは 永遠に あたなのまえを はしる」と。
それは、悲壮な決意でもありました。ひろみは宗方コーチと藤堂に支えられ、成長していきます。一方のお蝶夫人は、たったひとりでその道を進むのです。「あたくしこそは… 孤独だわ!!」そんなお蝶夫人の孤独な胸の内を知る人はいませんでした。
今回は、お蝶夫人の女王ならではの孤独と、その後、愛を受け入れるまでの彼女の変化を表す名言を4つご紹介します。
●「あなたのエラーは あたくしがカバーします! 精いっぱいのプレイをなさい」
宗方コーチの命令でダブルスを組み、試合に出ることになったお蝶夫人とひろみ。ふたりの実力の差は歴然で、ひろみは嫌がらせや陰口の的となり、お蝶夫人もひろみのプレイにいら立ちを隠せませんでした。
しかし、試合で口さがない部員から「敵よりも たよりない味方のほうが おそろしいっていうけど ほんとね!」という声があがった時、お蝶夫人の心に火が付いたのです。
「だれです あたくしのパートナーを動揺させるようなことをいうのは!!」と部員たちをしかりつけると、ひろみにも、「まけることをこわがるのは およしなさい たとえ負けても あたくしはあなたに責任をおしつけたりはしない」と励まし、「あなたのエラーは あたくしがカバーします! 精いっぱいのプレイをなさい」と、自らを追い込みます。
自分に絶対的な自信があり、女王として誇り高いテニスを目指すお蝶夫人だからこそのセリフです。女王はけっして逃げず、そして、人のせいにしない。ひとりで凛と立つお蝶夫人の姿は、女王らしく、気高く美しいのです。
●「きなさい 死にものぐるいで」
これは、全日本ジュニア強化選手の選抜大会で、お蝶夫人とひろみがぶつかる試合の前に、愛する後輩であるひろみに言った言葉です。
高校卒業をひかえたお蝶夫人は、ひろみとの試合に挑むにあたり、庭球協会理事である父に、その胸のうちを語っています。「たたかった意味があるように たたかいたいと思うのです」と、自分の技術のすべてをひろみに伝えるつもりでコートに立つのでした。
指導者である宗方が自分でなく、ひろみを選んだことも、ひそかに思いを寄せていた藤堂がひろみと惹かれ合っていることも、そしてなにより妹のようにかわいがったひろみが自分の手から離れていったことも、すべてを乗り越えてお蝶夫人はコートに立ちます。そして、あえて多彩なプレイを見せて、ひろみに圧勝することで、彼女に自分のすべてを伝えたのでした。
試合を前に、お蝶夫人は、美しく穏やかでまっすぐな瞳をひろみに向け、うすく微笑んでいるようにすら見えます。そこから感じ取れるのは、ひろみへの深い愛情と、しみいるような優しさ、そして自らを律してきた人の孤高の魂です。
しかし、月日とともに、お蝶夫人の心境にも変化が訪れます。