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手塚治虫『火の鳥』の、ゾッとする名作エピソード。怪談よりも怖い、人間たちの末路…

コンピュータに頼りすぎた人類の未来

「未来編」を収録した、『火の鳥』第2巻(角川文庫)
「未来編」を収録した、『火の鳥』第2巻(角川文庫)

『火の鳥』のゾッとするもうひとつのエピソードは、私たちの未来で本当に起こりうるのではと思わせる怖い話です。

●電子頭脳が示す破滅への道……「未来編」

 西暦3404年が舞台となっている「未来編」のエピソードです。人類は荒れ地となった地上を捨て、世界5か所にある地下都市へと生活場所を移していました。そして人類が意志決定を委ねているのが各都市にあるコンピュータ。それぞれが「電子頭脳・ハレルヤ」や「聖母機械・ダニューバー」などの名前を持っています。

 そんなある日、ヤマトという都市で暮らす主人公・山之辺マサトに、ある命令が下ります。それは、山之辺が一緒に暮らしているムーピーという宇宙生物を殺せというもので、元々は「ハレルヤ」が下した命令です。しかし、ムーピーにタマミという名前をつけて恋人同士として暮らしていた山之辺はこれを拒否。別の都市のレングードへ亡命しようとします。

 ヤマトの幹部はレングードへ連絡を取り、山之辺の身柄を確保したら引き渡すよう要請しますが、レングードの幹部が「ダニューバー」へ指示を仰いだ結果、応じる必要はないと断られます。どちらの陣営も自分たちのコンピュータの方が正しいことを言っているのだから言うことを聞けと主張し、引きません。

 埒(らち)があかなくなった両陣営は互いのコンピュータ同士で討論させることに。すると「ハレルヤ」も「ダニューバー」も互いに引かずにヒートアップ。出た結論が……「あなたとはあわないわ。どっちかが消えるべきなのだわ」「そうね戦争ね」という、まさかの宣戦布告。そして流されるまま人類は戦争を開始し、滅亡してしまうのです。

 それまで人類から「個人的な感情におぼれやすい人間の政治家より電子頭脳の計算に頼った方が確実」という理由で崇拝されていたコンピュータですが、最後は頼りすぎたために滅亡への道を誰も止められなくなった……という恐ろしい話です。こうなるぐらいだったら、イチかゼロかではなく妥協点をグダグダと探る人間同士の方がまだ平和なのかもしれません。

 また、人類が滅亡したあとの展開も衝撃的です。生き残った山之辺は、火の鳥から「人類が再び誕生するまで見守りなさい」と不死の力を与えられ、およそ30億年もの間、肉体が滅んだあとも意識だけで生き続けます。何もない大地から微生物が生まれ、恐竜時代を経て哺乳類が人類へと進化するまでの膨大な時間。不死の孤独をリアルに感じられる描写で、山之辺が体感した時間の重みがズシッと響いてきます。

(吉原あさお)

【画像】手塚治虫の伝説的名作『火の鳥』を深く楽しむ書籍。アニメ化されたエピソードも(4枚)

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