大谷選手を描いたらボツ? リアリティを追求した野球マンガ3選
マンガでベーブ・ルースを超える選手を登場させたらやりすぎと思われるかもしれません。ところが現実世界では大谷翔平選手がそれを成し遂げてしまいました。もうマンガと現実のリアリティが逆転しているといっても良いでしょう。そこで本稿では「リアリティを追求した野球マンガ」を厳選してご紹介します。
マンガの方が今じゃ現実的? 野球経験者の胸を打つリアルな野球マンガ
「マンガで描いたら編集者にボツにされるレベル」。
エンゼルス・大谷翔平選手の活躍ぶりにはこうした称賛が相次いでいます。メジャーリーグに二刀流で参戦。同一年に100安打と100奪三振を達成し、一般人はもとよりプロをして「理解不能」と言わしめるほどです。
さて、現実(リアル)がこうも現実離れしてしまうと、逆に “リアリティを追求した野球マンガ”が気になってくるところ。野球マンガといえば廃部寸前の野球部が弱小から一気に甲子園で優勝するまでの軌跡を描く……といったファンタジックな青春ストーリーを想像しがちですが、なかには野球経験者からの支持も熱い、リアルな野球ライフを描いた作品も存在しています。大谷翔平選手がフィクションをおびやかしている今こそ読みたい傑作をご紹介しましょう。
●元高校球児たちにぶっ刺さるリアリティ『ダイヤのA』
『ダイヤのA』(著:寺嶋裕二)は野球経験者からの支持が熱い作品のひとつです。主人公・沢村栄純は投手として長野の弱小から東京の強豪校へと野球留学してきたという設定。“お山の大将”だった沢村が身のほどを自覚するところから物語はスタートするのですが、舞台を強豪校にシフトした点が本作のリアリティをグッと増幅させてくれています。少年誌に連載されていたため登場キャラは濃い目ですが、ディープな“野球あるある”には定評があり、制球力を見せつけ審判の誤審を導く場面(10巻)などは寺嶋先生自身も“これを描かせてもらえるんだ”と驚いたとのこと。野球描写もさることながら2年生と3年生における絶妙な距離感の差異を描き分けている点も見事です。とはいえ、寺嶋先生いわく“選手たちが坊主じゃない時点でフィクション”とのこと。……坊主問題はまた別に譲ります。
●もはやルポルタージュ…『バトルスタディーズ』
強豪校設定が(高校)野球マンガの大きなポイントであることは既述の通りですが、さらにその点を追求した作品といえるのが話題作『バトルスタディーズ』(著:なきぼくろ)でしょう。本作の舞台はPL学園をモデルにしたDL学園。地獄のような寮生活での上下関係や基礎練習がまるで体験してきたかのような臨場感で描かれます。それもそのはずで作者なきぼくろ先生は正真正銘、PL学園野球部の出身なのです。しかも2003年には甲子園のレギュラーに抜擢されている異色のキャリアの持ち主。「笑顔禁止」「食事以外の水禁止」「先輩への応答は“はい”“いいえ”のみ」などなど信じられない鉄のおきてのなか、死に物狂いで練習に励む強豪校の球児たちの荒い息遣いを感じられる稀有な野球マンガです。「常勝」を義務付けられた球児たち緊張感……読みながらも息が詰まります
●現実が交差する野球マンガ『ストッパー毒島』
最後は傑作『ストッパー毒島』(著:ハロルド作石)です。素行不良で高校退学処分となった主人公・毒島大広がプロ野球入りし活躍する……一見、リアリティとはかけ離れた作品のようですが、舞台は現実世界と地続きなのです。実在の選手はもちろんのこと、球界不祥事(黒い霧事件)を下敷きにした球団設立の背景など、野球ファンならパラレルワールドに迷い込んだような感覚になれること間違いなしの作品。毒島がドラフト8位指名でプロ入りというところからもわかる通り、虚構性を保ちながらもギリギリ現実で起こり得そうな展開に持ち込んでしまう……ハロルド作石先生の剛腕が唸る傑作です。
ここまで「リアリティを追求した野球マンガ」を3作品ご紹介してきましたが、結局のところ大谷翔平選手の非現実ぶりがより浮き彫りになる結果となりました。
「非現実」と「現実」が入り混じっていることを鑑みるに、最も大谷翔平が登場しても違和感のない野球マンガは『ストッパー毒島』といえるかもしれません。
ちなみにリアリティを放棄した野球マンガとなると『アストロ球団』(原作:遠崎史朗、作画:中島徳博)、『地獄甲子園』(著:漫☆画太郎)、『デッド・オア・ストライク』(著:西森生)……こちらもこちらで甲乙つけがたい魅力があります。
(片野)