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クリリンがいなければゲームオーバーだった? 現代人にも通じる、危機管理能力の高さ

クリリンがいなければGAME OVERだったかもしれない『ドラゴンボール』

 クリリンの優れた部分は、意外なことに一度死んだことで開花したのかもしれません。それこそが引き際の見極め、無理をせず生き延びることを優先する姿勢です。タンバリンに殺された経緯は分かりませんが、その後を見てみると、天下一武道会でピッコロと戦った際、自分の実力を出し切ったところで降参していました。ピッコロはうっかり殺してしまったと思うほどの一撃を受けたにも関わらずです。

 その後も、ほとんどの地球戦士が死亡したサイヤ人襲来を生きのび、ナメック星ではドドリアから逃げきり、人造人間17号と18号との初見での戦いでは唯一無事にやり過ごすことに成功していました。それはクリリンが臆病だからというわけでなく、現状を把握してもっとも有効な手段を模索した結果なのだと思います。

 クリリンは、この最前線で生きのびるという方法で修行以上に効率のいいレベルアップをしてきたのでしょう。よく比較されるヤムチャは、クリリンがナメック星にいる間は界王星で修行していました。一方のクリリンはナメック星の最長老の手で力を限界まで引き上げたに過ぎません。どちらがより効率的か不明瞭ですが、結果的にヤムチャ自身がクリリンを地球人最強と認めています。それを考えると、実戦に優る修行はないと考えられるかもしれません。

 また、この状況判断の的確さは自分の実力を正確に把握していることから始まっているので、クリリンの強さはメインで戦うことよりも、サポートに徹することができる部分にあると思えます。よく使われる太陽拳などがその最たる例で、悟空やベジータたちサイヤ人が自分の力だけで敵を倒そうとすることと真逆で、パーティプレイに徹した戦闘をすることで結果的に味方全員の生存率を上げることができるのでしょう。思えばナメック星での戦いはクリリンの判断で窮地を切り抜けた盤面が幾度かありました。

 ……かといって、クリリンは逃げ回っているだけではありません。逃げ切れない場面では反攻に転じますし、18号をセルに吸収された時は怒りに任せて果敢に戦っています。実に男らしい決断もできる戦士の面も持ち合わせていました。

 クリリンの「無理をしない」「自分の力にあった活躍に徹する」というのは、個人主義の多い作中では異端ですが、現代人にも通じる危機管理能力の高さ、センスのいいダメージコントロールなのかもしれません。そのうえで「やる時はやる」という男らしさも持ち合わせているので、あの18号がほれ込むのも無理のないこと。それでも死亡してしまうのは、それだけ『ドラゴンボール』の世界が危険だということなのでしょう。

(加々美利治)

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