興収50億が目前『竜とそばかすの姫』 若者の共感を集めるのは「新時代のフェス像」?
細田守監督の新作アニメ『竜とそばかすの姫』が大ヒットしています。内気な性格の女子高生が、インターネットの世界で歌を披露し、人気者になっていくというストーリーです。主人公・すず役をミュージシャンの中村佳穂さん、親友役を「YOASOBI」の幾田りらさんが演じるなど、音楽ファンにとっても見逃せない作品となっています。
進化したネット世界を描く細田守監督
2021年7月16日より全国で公開されている細田守監督の劇場アニメ『竜とそばかすの姫』は、夏休み興行でいちばんの話題作となっています。首都圏は緊急事態宣言下にありますが、8月15日の時点で興収47億円を越える大ヒットに。細田監督の最大のヒット作『バケモノの子』(2015年)の興収58.5億円に迫る勢いです。
細田監督は東映アニメーション時代に『劇場版 デジモンアドベンチャー ぼくらのウォーゲーム!』(2000年)で注目を集め、独立してからは同じくインターネット空間を題材にした『サマーウォーズ』(2009年)をスマッシュヒットさせ、夏休み興行を任される人気監督となっています。
新作『竜とそばかすの姫』は、より進化したインターネットの世界が舞台です。ほぼ10年おきに、細田監督はインターネットの世界を扱っていることになります。顔が見えず、名前も変えることができるインターネットの世界は、誰もが自由に発言できる場ですが、面識のない人から手厳しく批評されることもあります。
スマホやパソコンが欠かせない時代となった現代を生きる若い世代は、『竜とそばかすの姫』のどこに魅力を感じているのでしょうか。
「夏フェス」として盛り上がる仮想空間
本作のいちばんの見どころは、やはり「U」と呼ばれるインターネット上の仮想空間でしょう。ユーザーは「U」に登録すると、ユーザー自身が持つ「生体情報」と連動した「アズ」という名のアバターになることができます。現実世界では人生をやり直すことはできませんが、「U」の世界ではやり直すことが可能です。華やかな「U」の世界に魅了され、すでに50億人ものユーザーが登録しています。
主人公は、高知の片田舎で暮らす女子高生・すず(CV:中村佳穂)。幼い頃に母親を事故で失ってから内気な性格となり、人前で歌を歌うこともできません。自分に自信が持てずにいたすずですが、「U」の世界で理想の姿「Belle」となり、自作の歌を堂々と歌うことができるようになるのです。
人間なら誰もが持っている「変身願望」に加え、本業がミュージシャンである中村佳穂さんの抜群の歌唱力に引き込まれます。カラフルな「U」の世界とマッチしたメインテーマ「U」を「Belle」がパワフルに歌うシーン、物語後半に「はなればなれの君へ」を静かに熱唱するシーンは、どちらも印象的です。
メインテーマ「U」を手がけたのは、ロックバンド「King Gnu」としても活躍する常田大希さん(millennium parade)です。また、毒舌ぶりを発揮するすずの親友・ヒロちゃんを、「YOASOBI」のボーカル・幾田りらさんが演じているのもチェックポイントです。
コロナ禍によって、多くの学校では文化祭や運動会などのイベントが中止となりました。また、せっかくの夏休みも、行動の自粛が求められています。若者たちの鬱屈した心情とシンクロするように、「Belle」は内に秘めた想いを情熱的に歌い上げます。映画館が「夏フェス」に変わっていく瞬間です。プロアマ、国籍を問わない、リモート型の新しいフェス像となっています。