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レジェンド脚本家・辻真先氏が語る、国民的アニメの「第1話」たち

1963年に、日本初のTVアニメ『鉄腕アトム』(手塚治虫原作)が放映されて今年で58年。同年放映の『エイトマン』(平井和正・桑田次郎原作)を皮切りに、脚本家の辻 真先さんは多くのアニメ作品に携わってきました。辻さんが90歳を目前に控えたこの夏、新たな著書の刊行を記念して、これまで手掛けた脚本についてお聞きします。

感動とテーマを伝えたかった『ジャングル大帝』の第1話

『辻 真先のテレビアニメ道』(立東舎)のカバー。帯に掲載の推薦文は『巨神(ジャイアント)ゴーグ』監督の安彦良和氏によるもの(C)Tezuka Productions/立東舎
『辻 真先のテレビアニメ道』(立東舎)のカバー。帯に掲載の推薦文は『巨神(ジャイアント)ゴーグ』監督の安彦良和氏によるもの(C)Tezuka Productions/立東舎

 89歳となった現在も、『名探偵コナン』(青山剛昌原作)など人気アニメの脚本執筆に携わっている辻 真先さんが、自身の脚本家人生を回想する書籍『辻 真先のテレビアニメ道』(立東舎)を2021年8月26日(木)に刊行します。

 辻さんはTVアニメの黎明期から数多くの脚本を手掛けていますが、特にTVシリーズの「第1話」を多く担当しています。「第1話」は、視聴者の心をつかむための重要な回です。創作における苦労やアイデアについてお話を聞きました。

――この度刊行される『辻 真先のテレビアニメ道』では、アニメとマンガが二人三脚で歩んできた歴史を浮き彫りにされています。辻先生とアニメ、マンガとの出会いを教えて下さい。

辻 真先さん(以降、辻) 僕は名古屋生まれの名古屋育ち。小学生だった頃は「漫画映画(当時のアニメの呼称)」に夢中で、名古屋繁華街の映画館に通いました。

「漫画映画」が好きだから「漫画」はもちろん大好き。終戦後には本が容易に手に入らず、漫画から離れた時期もありましたが、たまたま貸本屋で手塚治虫先生の『メトロポリス』を読んで仰天しました。以後、手塚漫画を乱読しています。

「漫画少年」(学童社)で連載していた『ジャングル大帝』の最終回を読んだ時には、不覚にも涙が止まらず、立ち読みしていた書店で恰好がつかなかった思い出があります。やがて自分が、手塚先生のプロダクションで『ジャングル大帝』のアニメに関わることになろうとは、この時は夢にも思いませんでした。

――辻先生はTVアニメの「第1話」を多く手掛けていますが、マンガが好きで原作の内容をよくご存じだったことも、その抜擢の理由だったと思います。『ジャングル大帝』(1965年)が、「第1話」のシナリオを担当した最初の作品ですね。

辻 記念すべきTVアニメ第1作『鉄腕アトム』が人気となり、世間は虫プロが次にどんな作品を出すのか注目していました。そこで国産TVアニメ初のフルカラー作品として企画されたのが『ジャングル大帝』です。僕たちスタッフの気勢も大いに上がりましたが、プロデューサーの山本暎一さんからストーリーにさまざまな制限があることを告げられます。

 その内容については『辻 真先のテレビアニメ道』で詳述していますが、致命的だったのは「大河アニメにはできない」ということ。『ジャングル大帝』は、当初からアメリカでの放映を予定していました。アメリカの地方局では番組をバラで買うので、飛び飛びに見ても物語がつながるようにして欲しいという、無理な要望があったのです。

 順不同でもわかるようにするには、原作のように主人公/レオを徐々に成長させていくことができません。原作でいうと4か月分ある少年時代のエピソードを、30分しかない第1話のアニメに収めて、第2話以降を差し替え自由にするしかありませんでした。

 しかし、仮にも『ジャングル大帝』は、手塚治虫先生の代表作のひとつ。ことに「第1話」では、アニメならではの感動を届けたいし、テーマを視聴者に伝えなければなりません。

【画像】TVアニメの知られざる歴史も…『辻 真先のテレビアニメ道』

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