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「MILLION TAG」優勝者決定! 藤田直樹&林士平タッグに聞く、挑戦の日々

集英社の編集者と挑戦者がタッグを組んで優勝を目指す新漫画賞「MILLION TAG」では、課題に挑戦する6組のタッグの熱い闘いが繰り広げられ、ついに最終課題を勝ち抜いた優勝者が決定。担当編集者とともに、優勝者の率直な思いを聞きました。

「むしろこれから」「ただ頑張るだけです」

「MILLION TAG」で優勝に輝いた、挑戦者の藤田直樹さん(右)と、担当編集者の林士平さん(左)
「MILLION TAG」で優勝に輝いた、挑戦者の藤田直樹さん(右)と、担当編集者の林士平さん(左)

 集英社の編集者と個性豊かな挑戦者がタッグで挑む新漫画賞「MILLION TAG」の激闘の過程が、2021年7月からYouTube「ジャンプチャンネル」で公開されています。第1位に輝いた優勝者には、賞金500万円と「少年ジャンプ+での連載確約」「コミックス発売」「Netflix制作によるアニメ化」という、華々しいデビューの席が用意されています。

「4ページのマンガを描く」「読切ネームを描く」「能力バトルの読切ネームを描く」など数々の課題を乗り越え、「連載ネーム2話分」という最終課題を経て優勝したのは、クリエイターたちの青春ラブストーリー『BEAT&MOTION』を描いた藤田直樹さんと、『チェンソーマン』『SPY×FAMILY』などヒット作品を手掛ける編集者・林士平(りん・しへい)さんのタッグでした。

 どのようにして作品づくりに取り組んだのか、結果を受けての心境はどうだったのか、おふたりに話を聞きました。

* * *

──優勝おめでとうございます。今のお気持ちを聞かせてください。

藤田直樹さん(以下、藤田):嬉しいです。最終課題はとにかく時間が足りず、悩んだ末に自分の描きやすいもので挑戦しました。最終課題で描いた『BEAT&MOTION』は、もともと音楽をする男女の物語を想定していましたが、林さんに内容を話したら、「片方をアニメーターにしたらどうか」と言われて……。

──主人公ふたりの職業は、そうやって決まったんですね。ネームを描くうえで悩んだことはありますか?

藤田:『BEAT&MOTION』は、職業軸と恋愛軸のふたつがあります。僕は放っておくとどんどん恋愛軸に寄ってしまうので、そうならないよう注意して、バランスがよくなるように意識しました。

──「MILLION TAG」の動画内で、最初の打ち合わせではダークファンタジーを描くことになりましたよね。出来上がったネームはまったく別のジャンルでしたが、林さんはそれを見てどう思いましたか?

林士平(以下、林):率直に、キャラとドラマは面白くなりそうだなというのが第一印象です。ただ、藤田さんには、とがった部分というか「今っぽさ」を足したいねとは話しました。ミュージシャンを目指す男女が切磋琢磨する物語は、ちょっと古典的だなと。

 それで、「片方をアニメーターにする」というアイデアを投げました。そのボールが、しっかり藤田さんに刺さったのであればよかったです。

──林さんは、今回の優勝という結果をどう受け止めていますか?

林:藤田さんがものすごくがんばってくれて、それが正しく評価してもらえた結果だと思います。とはいえ、実は藤田さんも僕も、優勝できるなんてさらさら思っていませんでした。課題提出の前日も当日も、「次の読切は何を描こうか」なんて話していたぐらいですから。普段のコミュニケーションも、優勝することを意識しない会話ばかりでしたね。

──林さんは動画内でも、つねに未来を見据えたアドバイスをしていましたね。

林:大半の作家さんは、連載までこぎつけるのに2~3年費やすものです。5~6年経過することだって珍しくありません。そうやって年月を重ねた先に、作品が売れる商売だと思って仕事をしています。

 藤田さんにも、お会いした段階で「優勝に固執せずどれだけ成長できたかが最も重要だ」と話しました。

──藤田さんは、「MILLION TAG」で成長したと思える部分はありますか?

藤田:今までとは違うチャレンジができたことです。僕が第2課題で描いた『真夏の曳航』は、沖縄を舞台にした物語です。普段から描きなれたものを手癖で描いた側面もありますが、最後にちょっとしたどんでん返しを入れたのは、僕にとって小さなトライでした。

 そのあと、第3課題の『ラブバトルベイビー』では、林さんとコメディをやろうと話して決めたんです。結果は出ませんでしたが、僕にとっては一番よかったです。最終課題も、コメディの路線を踏襲して描きました。

林:ここで負けても失うものはないので、あえて新しいジャンルにトライすることは常に意識しました。勝つことよりも、3週間をコメディにかけた時間のほうが重要だなと。『ラブバトルベイビー』は、仕上げた段階でゴールだと思っていました。

 ただ、今読み返してみると結構面白いんですよ。だから結果に対しては、「審査員とは感覚が違うな」と思っています(笑)。

藤田:僕も最近、ひとりで読んで笑っちゃいました(笑)。

インプット漬けの行動習慣が培われた

藤田直樹さんが第2課題で描いた作品『真夏の曳航』の主人公、平山加奈のキャラ絵
藤田直樹さんが第2課題で描いた作品『真夏の曳航』の主人公、平山加奈のキャラ絵

──林さんは、「MILLION TAG」を走り抜けた今、どんな感想を抱いていますか?

林:連載が1度終わったくらいの感覚です。藤田さんとお会いしてからの約4か月、複数のネームを描いたり、たくさんコミュニケーションをしたり……この短期間で、藤田さんはものすごく成長しました。

 藤田さんは他誌で商業デビューされている方なのですが、僕は新人さんに接するようなスタンスで、漫画家として何を大事にすべきかを伝えられたと思いますし、藤田さんにもご理解いただけたかなと思います。

──「MILLION TAG」のなかで、印象深い出来事はありましたか?

林:僕としては「普通に仕事した」って感じがほとんどだったのですが、ある日藤田さんが「休日なのでサンシャイン水族館に行く」と話していたんですよ。サンシャイン水族館はスマホで予約が必要なんですが、彼はスマホを持っていなくて。結局行けずにふて寝したというのを覚えています。

藤田:あの後、無事に行けました(笑)。

──無事に行けてよかったです(笑)。そういえば、藤田さんが課題期間中に鳩を見に行ったとき、林さんに「そんな時間あるの?」とお話しされていましたね。

林:あのときは、締切まで時間がなかったので「今、考えるべきことはこれだよね」とか、「こう行動するといいよ」とアドバイスをしていました。もちろん時間に余裕がある休日はゆっくり休んでねと。根を詰めてもろくなことがありません。アイデアは、リラックスしているときに湧いてくるものなので。

──そうだったんですね。藤田さんは、「MILLION TAG」で日々の行動や習慣に変化はありましたか?

藤田:家に帰ると、必ず何か行動をするようになりました。「暇なことしていたらあかんな」と思って。これは林さんに牽引されたというか。「MILLION TAG」終了後には、集英社さんからたくさん本をいただきました。地元に帰ってからは、それをずっと読み漁っています。

 林さんもそうですが、今回お会いした作家さんから「連載が始まると、作家さんはたいてい『もっとインプットしておけばよかった』と感じる」というお話を聞きました。これは真理やなあと、我が事として意識しています。

 実は、「MILLION TAG」が始まるまで、まったく映画を観ていなかったんですね。東京で企画がスタートしてからは、「インプットを習慣化したほうがいい」と言われて、1日3本のペースで観て、さらに本も読むようにしていました。

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